Chris | ナノ




潜入してから1ヶ月、俺たちは発見したウイルスや組織についてのレポート作成に追われていた。

「花子、一旦休憩をとろう。」
「あ、はい。もう少し進めてから…」
「先に行ってるぞ。」

はい、と返事が返ってきたので一人で自販機が置いてあるコーナーに向かう。見てみれば別部署のルイス・セラがコーヒー片手に休憩をとっているところだった。
軽く挨拶代わりに片手を上げると向こうも上げ返した。

「休憩か?」
「ああ。」
「あのカワイコちゃんはどうした?また会いてーなぁ…お前ずりーよ、あんなカワイコちゃんとバディ組んでるとかよ。17にしちゃあオッパイがデカい。」

何を言ってるんだコイツは。認めたくないが、花子のことを言っているんだろう。彼女もそろそろ休憩に来ることを伝えると奴はニヤニヤとしながらポケットから煙草を、取りだそうとしたがなかったようだ。

「煙草無いか?」
「ほら。」
「サンキュー。」

ルイスが煙草をふかす。さて、俺は缶コーヒーを買うか。コインを入れて、いつもと同じものを買う。
グッと煽って一気に飲み干す。少しだけ、重かった瞼が上がるようになった。缶コーヒーマジックだ。

「なあ、あの子遅くねえか?」
「ん、そうかもな。」

また根を詰めてやってるのか、いや、仕事に真っ直ぐなのは悪いことではないが、適度な休憩もしないと、支障を来す。

「仕方ないな…」

コインを入れて、花子がいつも飲んでいるミルクティーのボタンを押す。ガコンと音を立てながら落ちてきた冷たいそれを手にとって、ルイスに手を振る。

「あっ、待て!俺も…」
「お前は別部署だろ!」

奴を花子に近付けると何をするか分からないから提案は却下しておいた。パートナーを守るのも彼女のパートナーである俺の役目だ。

オフィスに戻ると花子はまだ画面を見つめて休みなく手を動かしていた。
そっと、気付かれないように彼女の後ろに立つ。が、流石に気付かれたようだ。彼女は尚も画面を見たままだ。

「あ、すみません。もうすぐ休憩とらせてもらいますね。」

手に持った冷えたミルクティーの缶を花子の頬に押しつけてやる。

「ひゃっ!く、クリスさん、なにを…」
「一旦休憩をとった方がいい。どうせ家に帰ってからもずっとやってたんだろう、隈が酷いぞ。」
「でも」
「後は俺がやるから。」

ミルクティーの缶を手渡してやりながらデータのバックアップをとる。USBメモリにデータを移して、花子をオフィスから追い出すようにした。

「昼食をしっかり食べてこい、さっき休憩所でレベッカとジルを見かけた。」
「は、はい。…すみません。」
「ルイスに捕まらないようにな。」
「る、ルイスさんですか?分かりました。」

失礼します、と辞儀をして花子は出て行った。その様を見て少しだけ安心する。ジルならなにか的確なアドバイスをくれるだろう。
任務から帰ってきた花子は、今まで以上に仕事に打ち込むようになった。それはいいことだが、何処か焦っているような、そんな感じもした。がむしゃらに、ただ無心に仕事をしている。いつか体を壊すのではないかと心配になるぐらいだ。

「さて、と。」

USBメモリを自分のノートパソコンに差して、自分で作っていた文書と花子の作っていた文書を1つにまとめる。
村で見たこと、聞いたことを打ち込んでいく。プラーガのこと、組織の目的、こどもたちに投与されたウイルスのこと。

こどもたちと言えば。

「クリス、飯でも食いに行かないか。話したいことがある。」
「ああ、レオン。ちょうど声をかけようと思ってたんだ。」

男2人で並んでオフィスを後にする。向かう先はいつもよく行くカフェテリアだ。



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