box02 | ナノ


冬の寒さと言うものは耐え難いもので、できればなかなか外に出たくないと言うのがみんなの本音だと思う。わたしもそんな意見を持つ人間の一人なのでおこたの中でぬくぬくと過ごしていたのだ。それはわたしの向かいに先ほどまで座っていたクリスさんも同じことだと思う。
ああ、願わくばずっとこのおこたで過ごしたいなあなんて怠惰な考えを抱きながらうつらうつらしているとキッチンから帰ってきた彼がもぞもぞとまたおこたに入りながら一言。
その一言がわたしとおこたを引き離すことになった。

「大変だはなこ、食材を買い足しに行かないと今日の晩飯がヒヤシソーメン?になるぞ。」
「えっ。」
「今日の晩は雪が降るらしい、それも積もる。」
「…それは、わたしへの死刑宣告ですか?」
「残念ながら俺に対してもだ。」




「さ、むいー、このままじゃ大変なことになりそうです、クリスさん。」
「ならどうしてそんな薄っぺらいコートを着てきたんだ君は。」
「だって、中と外でこんなに気温が違うだなんて思わなかったんです。」

二人の暮らすアパートに一番近い大型のスーパーまではいつも大体、車で七分、徒歩で十五分。今日は雪が降ってるから車でなら買出しに着いていきますよと言ったのに何故か徒歩でわたしは外に駆り出されていた。

「車は?」
「今使えない。」

なんでもクリスさんがお得意のうっかりを発動してタイヤを冬用にするのを忘れちゃったんだとかなんとかごにょごにょ言っていた。なんですかそれひどい!行きませんよ寒いのは苦手です!とわたしが言いきる前にクリスさんはわたしを外へと連れ出した。
流石にそのままだと寒すぎるのでせめてコートは着させてくださいと待ってもらって、わたしたちは並んで歩き始めた。
当たり前のように歩道側を歩かせてくれる隣の人。さっきまでは冷酷にわたしとおこたを引き離した悪魔みたいに思えたけど、こういうさり気無い紳士っぽさを見せられるとこの年上の恋人がますます大好きになるから不思議だ。
スキンシップが多いわけでも、特別甘やかされてるわけでもないけど、それでも幸せなのだ、この人と過ごすのは。

流石にこの人も寒いのか厚手のコートを着てポケットに手をつっこんでいる。寒いから二人とも無口になる。ざくざくと雪を踏む音だけが聞こえている。わたしたちが歩いたところには足跡。クリスさんとわたしの足はサイズが違いすぎてなんだか滑稽だ。


冬の寒さがちくちくと頬を刺す。そろそろ何か話さないと泣きそうだと思った途端、クリスさんがこちらを見た。目がばっちり合ってなんだか気恥ずかしい。
彼も少し驚いたようだったが、わたしの顔を見て口の端を上げて笑った。何かわたしの顔についてるんだろうか。

「鼻が真っ赤だ。」
「だって寒いんです。」
「マフラーは?」
「してないです。手袋も。」
「…寒いのは分かってただろう?どうして着込んだりしないんだ。」

はぁ、溜息だろうか。クリスさんが吐き出す息は白い。それから立ち止まって、自分がつけていたマフラーをわたしの首にぐるぐると巻いてくれた。

「わ、すみません。」
「風邪を引いたら困るしな。…ついでに、ほら。」

ポケットから手を出してくる彼。それをわたしに差し伸べてくる。意図がよく分からなくってキョトンとしているとぐいっと手を掴まれてわたしの手はあっという間に彼のコートのポケットの中。

「…随分と大胆ですね。」
「冬はスキンシップには好都合だな。」
「クリスさんってむっつりですよね。」
「…男がそうで何が悪い。」
「いやそこは開き直らないでください。」

開き直ってるからすなわち俺はむっつりではない、というのがクリスさんの反論だったけど、クリスさんそれ結局スケベであることには変わりないですよ。まあそんなことを言うのはやめよう。あまりに子供っぽすぎる。
こういうスキンシップの裏に何も下心がないことは分かりきっている。だってそういうところが好きなんだから。

「わたし、冬好きになりそうです。」
「そうか、俺もだ。」
「次からも手袋忘れてこよう。」
「…なあ、この格好結構恥ずかしいんだぞオッサンには。」

手袋をはめない理由



タイトル:瑞典


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冬ネタ多いですね。
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