box02 | ナノ


「クリスさん、起きてください。」
「ん、どうした…」

おこたに入っていかにも眠たげな顔をしているクリスさん。なんだかこの風景は何かと被ると思っていたら冬場の休日のお父さんの姿だった。いや!クリスさんまだ30代独身なのに!

「クリスマスは二人で過ごすって約束したじゃないですか、イルミネーション見に行くって言ったじゃないですか!」
「…まさか、もう夜か?」
「そうです。」

わたしがそう答えるとクリスさんは呆然としたあと、一言だけごめんとわたしを抱きしめた。

昨日、ようするにクリスマスイブはわたしは一人だった。なぜならクリスさんが今日という一日をわたしと過ごすために必死に仕事を終わらせていたから。クリスさんのお仕事は基本的に休みがない。
でも今日は特別な日だからって普段はあんまりイベントに頓着しないクリスさんが二人で過ごそうと言ってきたのだ。だから二人のクリスマスは25日のクリスマス当日だと言うことになっていた。
クリスさんが帰ってきたのは日付を跨いだ今日の深夜のこと。
流石にわたしはそれまで起きていられなくって、朝起きたら隣でクリスさんが爆睡していて驚いた。

で、一旦二人で布団から出て、いつもどおりの日程を過ごして、お昼過ぎ頃に今日の晩御飯のご馳走を作るための食材を買いに行こうとクリスさんの方を振り返ると昨日の疲れが出たのかそれはそれは安らかな寝顔でこたつに潜っていて。今この人を起こしたらわたしは人間じゃなくなってしまうと思って一人で買出しに出かけた。
寒いし、イルミネーションがいっぱいだしその近くにはいちゃいちゃしてるカップルでいっぱいだしで泣きそうになった。クリスさんの知り合いだというエージェントさんの言葉を借りるなら泣けるぜ。

家に帰ってもクリスさんは先ほどの体勢から全く動かずに寝てるし、よっぽど頑張ってくれたんだろうなあなんて思いながら晩御飯の支度を始めて、完璧に仕上げて外を見ればもう真っ暗。時計を見遣れば19時30分。なんと特に恋人らしくいちゃいちゃするわけでもなくわたしのクリスマスはあと4時間ほどで終わろうとしていたのだ!
さすがにこれはいやだとクリスさんを揺り起こしたのが冒頭。わたしは今彼の腕の中に居る。

「本当にすまん。」
「いいんです、クリスさん頑張って仕事終わらせてくれて一日家に居てくれてたんですし。わたしそれだけでも嬉しいです。」
「声が震えてる。我慢するな…とは俺がいう権利はないな。」

今から俺はお前のためだけに動く、何がしたい?クリスさんは申し訳なさそうに呟く。わたしはふるふると首を横に振る。もういいです。分かってる、わがまま言っちゃいけないのは分かってる。クリスさんは本当は今日だってお仕事で、でも今日の分のお仕事も昨日終わらせてくれたから疲れて寝てて、それは全部私と二人で過ごすためで。
頭では分かってる。でもどうも心の方が納得してくれない。
本当は今すぐにだって夜景を見に行きたいし、二人で晩御飯を食べたい。晩御飯のメニューたちは今日のために頑張って練習したのだ。

「さみしかったんです。」
「ああ。」
「クリスさんが頑張ってくれてるのは痛いくらいに知ってるし、知ってるけどそれに対して素直に感謝できてない自分がいやです。」
「…根本的な原因は俺だな。すまん、泣き止んでくれ。はなこは何も悪くないから。」

抱きしめられながら頭を撫でられるのは気持ちいいから好きだ。なんだか心があったかくなって、もっともっと甘えたくなってしまう。

「夜景が見たいです。」
「ジルに綺麗に見える場所を教えてもらった。」
「ご飯も二人で食べたいです。」
「指傷だらけにして練習してくれてたのも知ってる。楽しみにしてるよ。」

ぎゅうっと抱きしめあって、その後どちらからともなくキスをした。少しだけ煙草の味。

「さ、出かけようか。」
「はい!」
「俺は先に車を暖めてるからゆっくり準備して来い。」

自分の愛車の鍵を手に取ったあと、彼が突然振り向いて近づいてきた。どうしたのかと思ったら不意に屈んで、Merry Christmas!と頬にキスを落とされた。彼の大きい身体には似合わず可愛らしい音を立てて落とされたそれにはこれほどない親愛が込められていて。

ずるい、これはもう、許すしかない。

ハニーオレンジの星に告ぐ



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