「アルくん、ごめ」
「心配したじゃないか花子のバカ!そろそろ日が暮れるのも早くなるんだから女の子が暗いところ一人で歩いちゃダメだぞ!しかも今日いつもより寒いのにそんな薄っぺらいカーディガンで!」
アルくんはすごい勢いでまくし立てたあと無事でよかったと一つため息。心なしかいつもピンと立った前髪がへにゃりと元気を無くしているように思えた。ごめんなさい、と謝るとそれはママに言えと軽くげんこつを落とされてしまった。うう。
「寒いだろ、羽織ってなよ。」
自分の羽織っていたジャケットを脱いでわたしに渡してくれた。アルくんの体温が残るそれはとてもわたしを安心させる。
「走ってきたの?」
「自転車を出す時間が惜しかったから。」
申し訳ないな、と思って俯いていると頭を優しくぽんぽんされた。大きな骨ばった手はあたたかい。いつだってわたしはこの手に守られてきた。
見つめていたら手を握られて少し驚いた。嫌悪感はない。きっと男の子にされたらわたしは死んでしまうだろう。アルくんだから平気。
「帰ろう、ママが待ってる。」
「うん。」
あの日の夕焼けも、アルくんと一緒なら少しだけ、ほんの少しだけ、悪くない。