周りを見渡すと、甘い香りが鼻に届き、そしてフランケンシュタインやドラキュラにおばけなどの仮装をしたクラスメイトや生徒がそこかしこにいる。今日はホグワーツの中でも大きなイベントの一つ、ハロウィン。かくいう私も悪魔…もとい小悪魔の仮装をしてホグワーツ城内を練り歩いている。

道すがら会う友達とお互い「Trik or treat!!」と言い合って、油断してお菓子を持っていない友達には悪戯を仕掛け、準備のいい友達からは美味しそうなお菓子を貰った。この時期は実に良い…食べる事が大好きな私にとってはとても有難いイベントだよ…。と、意識を飛ばしていると、猫耳を付けた友達を筆頭にしたみんなから声を掛けられる。



「ねぇ…そういえば名前、今日彼氏はどうしたの?」

「まさかまだその姿見せてないとか言わないわよね?」

「今日は折角のハロウィンよ?彼氏と楽しまなきゃいけないわ!」

「え、あ、あはは…まだ…です………」



ジリジリと詰め寄ってくる友人達に後退りつつそう答えると、みんなオーマイガー!とでも言うように、各々悲しみのポーズをピッタリのタイミングで披露してくれた。怖!!この子たち人の恋愛事情に関して過敏過ぎやしませんか!

ひくつく口元を抑えながら彼女たちを見ていると、これまた一斉に起き上がり、今度は競歩でこちらに近付いて来た。一体どうしたんだと言うのか。ゾンビの仮装がお似合いだよ!と心の内で呟いた後に、ぎらぎらと目をぎらつかせる彼女達に私は話し掛けた。



「えーっとですね、彼には今から会えないかなと思って校内を歩いていましてですね…」

「………そうなの?…ああ良かったわ!名前の事だからお菓子にばっかり夢中でまさか彼を忘れてるんじゃないかってヒヤヒヤしてたの!」

「そう…あれは一年生の時のハロウィン…」

「お菓子を貰う事だけに夢中で男子なんかどうでもよさげな名前が…」

「…〜!それは蒸し返さないで!!あれは仕方が無かったっていうか…」

「はいはい、分かったわ。…さってと!じゃ、名前の彼氏を探さなきゃね!」



過去の出来事をしみじみと蒸し返されたところで、納得してくれたらしい友人が協力してくれる事になった。これは心強い。この仕掛け階段や騙し扉、そして極め付けは広大な広さを誇る城内を一人で捜し回るのは骨が折れるのだ。

ありがたくその好意を受け取ろうとお願いします!と言おうとした所で、後ろから誰かに右手を掴まれる。

え?とそちらを振り向くと、ジャック・オ・ランタンを被ったスリザリン生がいた。どうして手を掴まれたのかさっぱり分からないでいると、そのジャック・オ・ランタンは一言も発さずに、私の手を掴んだまま走りだした。その拍子に貰ったお菓子を落としてしまうし、友人達が私の名前を呼ぶ声が聞こえるけど、力が強くて手を振りほどけない。



「あの、一体誰ですか?」

「……」

「………」

「あの!」



校舎でも人気が無い廊下まで来た所で、目の前のジャック・オ・ランタンは立ち止まった。私は彼に会いに行かなきゃならないのに何故こんなとこに…と思っていると、目の前の生徒が被り物をおもむろに脱ぎだした。

私がギョッとしている内に、その被り物は完全に脱げ、何と私が捜し回っていた彼氏…レギュラス本人が立っていた。えぇ?!と驚けば、彼はにこりと微笑みながら何時もの心地よい声で喋りだす。



「…ふぅ、やっと会えましたね、名前」

「え…れ、レギュだったの?!」

「そうですよ。貴女を探して校内を歩いていたら、丁度友人と喋っている姿が見えたもので、つい連れてきちゃいました」

「えぇぇぇ!!?」



優しくて、そして甘い甘いお菓子の様な彼の声が廊下に静かに反響して、彼に包まれている感覚に陥る。…やっぱり、好きだなあ。と彼を見つめながら、唐突にそう思った。



「そういえば、さっき名前が友人話していた内容が少し聞こえてたんですよ」

「え?どの辺り?」

「確か…一年生の時は、辺りからですね」

「それ殆ど全部じゃん!!」



クツクツと笑いながらそう言ってのけたレギュは、そのクィディッチで筋肉の引き締まった腕を緩慢な動作で伸ばす。彼の手は私のそれをゆっくりと取り、私の手の甲に口付けてきた。

「…今は、貴女は僕にしか興味が無くなるようにしてあげますから」、と言う彼に私の中の羞恥メーターが針を大きく振り切った。どうにかして紛らわさないと!!と熱くなる脳内で答えを導きだすと、トリックオアトリートと半ば叫ぶ形で言い切った。対するレギュはきょとん、とした後にすぐに穏やかな顔に戻って、ポケットの中からキャンディを取り出す。

良かったー!!!甘い雰囲気に慣れない私はきっとこれだけで顔が真っ赤だ。仮装の小悪魔の尻尾が揺れるのを視界に捉えながら、キャンディの包み紙を開き口に放り込む。美味しい。



「…名前」

「はい?どうし……!!」



壁際で赤い頬を隠すために俯き加減でキャンディを舐めていると、それを少し見ていたレギュが私の名前を呼んだ。どうしたのかと顔を上げると、私はいつの間にか壁際に追い詰められていて。思わず舐めて小さくなったキャンディを噛み砕いてしまった。

顔の横の壁両側に着かれた腕と、立ちはだかるレギュの身体が退路を断っている。交わる視線を逸らせないでいると、彼は何時もより少し低めの声色で優しく囁いた。


「Trik or treat.」


どうしよう。ここに連れて来られた時に貰ったお菓子は落としてしまった。悪戯…さてしまう。そう思うと落ち着かなくなってきて、私は視線を俯けた。それをお菓子を持っていないと判断したレギュは、綺麗に微笑むと、私の唇にキスをしてきた。

唇をなぞるようにしていた彼の舌が私の唇を割り、中にまだ少し残っていたキャンディと共に私を翻弄する。遠くの方で、悪戯仕掛人がしたと思われる爆音が聞こえた。



「…本当、貴女は小悪魔ですね」









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