日中とは打って変わって緩やかな風が頬を撫でていく夏の夜、私はレギュと一緒に外を歩いていた。門限を過ぎて静まりかえったホグワーツは、昼間の賑わいから姿を変え、どこか荘厳な空気が流れているように思える。こんなとこ、見付かったら罰則ものだなあ。とどこか上の空な私は、抑えめの声で早くして下さい。と言ったレギュとはぐれないように、小走りにその逞しい背中を追い掛けた。

事の発端は、私のたまたま口にした話からだった。今日は、月と火星、土星、そして乙女座のスピカが一緒に見える日だというのを同じ部屋の友人から聞いていたのだ。私はこの手の天文学が大好きで、勿論授業もそれを選択している。こんな天体現象はなかなか無い。どうしよう、見たい。見たいという気持ちは先行するものの、寮の門限というものがあるので、フィルチさんなんか特に念入りに校則違反の生徒を探し回っているので無理だ。


私がはあ、と諦めの溜め息をつき、スリザリン寮の談話室のソファーに座った時、彼が入ってきた。レギュだ。夏服のカッターシャツがとても似合っている彼は私のいわゆるボーイフレンドというやつで、私は彼とお付き合いさせてもらっている。いつもかっこいいなあ、と見惚れていると、彼が話し掛けてきた。



「名前、こんな所で溜め息をついてどうしたんですか?」

「いや、ちょっとね…」

「また薬草学で失敗したんですか…」

「違う違う!実はね…」



レギュに別に隠し立てする必要は無いので、そのままの事を話す。彼は私が天文学が好きということもちゃんと知っているため、私の話を最後まで聞いてくれた。すると、レギュは何だ、そんな事かと呆れたように息を吐くと、こちらを向いて微笑んだ。そしてそのまま私にしか聞こえないように声のトーンを落とし、ゆっくりと話しだした。



「そんなに見たいのなら、僕が連れて行ってあげます」

「えっ?でも罰則が…」

「僕がフィルチさんに出し抜かれるとでも?」

「…ふふっ、そんな事あるわけないね」

「なら、今日の夜八時に談話室に来て下さい」

「分かった」



その後、私とレギュは時間通り待ち合わせをして、こっそりと談話室を抜け出した。勿論同室の友達にはお願い済みだ。レギュは呪文を駆使し、フィルチさんに見付かる事も無く寮を抜け出し外に出る事に成功した。で、冒頭の場面ということだ。

クィディッチのシーカーであるレギュは、体は一見細身に見えるが、実は筋肉がしっかりと付いていて男らしい。後ろを歩いていて気付いたことだ。そういえば何でいつもは校則なんかに厳しいレギュがこれに付き合ってくれたんだろう、気になって仕方がなかったので、私は後ろから尋ねた。



「ねえレギュ、何で今回これに付き合ってくれたの?」

「後で教えてあげますよ」



レギュは艶やかに頬笑むと、人差し指を口元に宛て、Siー、と私を静かにさせた。



 − − − 



さくさくと青草を踏み締めて歩いて行き、ホグワーツ城から少し離れた所まで来ると、レギュは立ち止まった。すると、懐から自分の杖を取り出して、アクシオ、と呟く。何処からともなくレギュの自慢の箒が飛んできて、まるで忠犬の様にぴったりとレギュの傍に浮いた。なるほど、箒で移動するんだ。

レギュがこちらを振り向き、どうぞお手を、お姫様。と手の平を差し出してくれた。レギュ、恥ずかしい事を平然とやってのけるあたりはお兄さんとやらに似ているんじゃないかな。悶々と思考を巡らせていると、私と彼を乗せた箒が高度を上げていく。夜風を孕んだ自分の髪が揺れるのを見て、私はレギュの腰に腕を回してぎゅっと力を込めた。ぐんぐんと高さを上げる箒がある一定の位置まで上がると、レギュは空中でそれを停止させた。



「名前。それで、どうやってその現象を見たらいいんですか」

「えーっとね…、月の方を向けばそれを目印に見れるよ!」

「じゃあ少し場所を変えますよ、しっかり掴まってて下さいね」

「うん!」



前で箒を操作するレギュの綺麗な黒髪が風に揺られる。周りの星たちが瞬いて、彼をより美しく、そして星たちも美しく輝いているみたい。あっという間に目的地にたどり着いたので、さっき秘密と言われた、レギュが校則違反までして付き合ってくれた理由を聞いてみる。



「そういえば、さっき秘密って言ったこと…」

「あれですか?そんなの、名前の笑顔が見たかっただけですよ」



そう幾千の星をバックに言ってのけたレギュは、まるで童話の王子様のようで、私はまともに顔をみる事が出来なかった。









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