今日の仕事ももうすぐで終わりだろうという時間、アルバイトである名前は店に並べてあった土産物を棚から下ろし、店じまいの準備を始めていた。

南国らしいカラフルな置物や、アバレヤリイカの薫製など特徴的なものばかりが揃うこのシンドリアだが、名前はこの国が大好きだ。小さな頃から親しんできたこの家が家の上に重なるような市街地も、何度友達と探検したことか。



「よし、あとこれだけだ」

「すっ!すいません!まだ大丈夫ですか?!」



もうあと棚から水差しを下ろすだけで店じまいの準備が完了するだろうというところで、いきなり真後ろから声を掛けられてつい驚いてしまう。危ない危ない。水差しは割れ物だから落とさなかったことにほっと安堵の息を吐くと、その人物を確かめるため名前は振り返った。

振り向くと、自分と同年代くらいであろう金髪の少年が立っていた。中央でツンと立った髪の毛はまるでツノのようだし、着ている服からして異国から来た人、というところだろうか。名前はにこりと微笑んで、大丈夫ですよー、と声をかければそちらの少年も安心したようにゆっくりと息を吐いた。走ってきたのだろう、少し息が切れている。



「えーっと…、アバレヤリイカの薫製ってありますか?」

「はい、ありますよー」

「じゃあそれ一つください」

「まいどありがとうございます。包むので待って下さいね」



本当に閉店間際とはいえ、まだ営業時間の範疇だ。名前が時計をちらりと見ると、閉店五分前の時刻を指していた。先程片付けようとした水差しをそこらへんの机の上に置き、もうすでに店の奥に置いてあるシンドリアの名物アバレヤリイカの薫製を取り出してくる。それを丁寧に、そして素早く紙の巾着に包んでいると、さっきの少年から視線がきている事に気付いた。

さっきも言ったように名前と同い年ぐらいの少年は、土産物を包む自分の手元を見て感心したようにきらきらとした瞳で包みを見つめていた。面白い人だなあ。名前はクスリと忍び笑いをし、目の前で双眸を輝かせている相手に「そんなにすごかったですか?」と堪えきれなかった笑いを少しだけ洩らしつつ、尋ねてみた。



「えっ?あっ、えぇっ?!」

「お客さん、あなたしか今店の前にはいませんよ」



声を掛けられると、まるで自分以外の誰かが声をかけられたのかときょろりきょろりと視線を泳がす目の前の少年に、また笑いがでてしまった。その客しかいないことを告げると、納得したように、照れながら頭を掻いて話し始めた。



「はい、素早くてシャシャシャシャシャー、って感じの手さばきが凄くてつい」

「ふふ、お褒めに預かり光栄です。見たところ同い年ぐらいですよね?よかったらお名前を教えていただけませんか?」

「あ、はい!俺はアリババっていいます。あなたは?」

「私は苗字名前です。随分急いできたんですね」



少年の名前はアリババというらしい。やはり同い年だったらしい。確認するとそうです。という返答と共に、急いできた理由も話してくれた。



「俺、城で食客をさせてもらってるんです」

「食客の方でしたか!凄いですねえ」

「いや、そんな。それで俺の連れのアラジンってやつと遊びをしてたんですよ」

「へえ、どんな遊びですか?」

「ジャンケンで先に五勝した方が、一回ポッキリで負けた方のやつに食べたい物を言って閉店間際にダッシュで買いに行かせるっていうのなんですけど…」

「あははっ!凄い遊びですね!」

「しかもアラジンの奴、『僕、いまとってもアバレヤリイカの薫製が食べたいなァ〜…』ってムカつく顔で言ってきやがってですね!」

「アラジンさんもアリババさんも楽しい方ですね、ふふふっ」



拳を握りながら身振り手振りで説明する彼に、ついつい笑いだしてしまっていた。そのままクスクスと笑っていると、アリババがこちらをジトッ、とでもいうように見てきて、「苗字さんさっきから笑ってばっかじゃないですかあ〜…」と、不服そうに呟く。その顔すらも面白い。

名前がごめんなさい、とまだ笑いを残す声色で謝ると、まだ不服そうではあるがいいですよ!と許してくれた。それを見ながらも、ふっと思ったことがあった。それを特に何も考えずに口に出してみる。



「でも、私はアリババさんと出会えて楽しかったし、よかったですよ」

「ええぇぇっ、あ、あの、ありがとう…ございます…」



あまり深い意味は無かったのだけれども、目の前にいる少年が頬を赤らめて動揺する姿に、少し胸が高鳴った事は気のせいだろうか。私は疑問を笑い飛ばす様に、彼をからかいながら薫製の包みを彼に渡した。










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