※花京院生存設定です




「花京院くんはさ、シーグラスみたいだよね」



二人で来た春先の海辺で、名前はそう言って笑った。僕はといえば、よくその言葉の意味が分からなくて、え?と聞き返す。彼女がまた、フフフと心地の良い声音で笑う。そして手のひらをこちらに差し出してきた。……うん。青みがかった半透明な海辺のお宝…シーグラスだ。少しさらさらとした表面になったそれは、昔の姿―普通の硝子だった時よりも綺麗に見える。

名前が手のひらのそれを太陽にかざすと、光を屈折させて反射させる、とかそんな感じにはならず、そう、まるで海の中から海面を見上げた時みたいな柔らかなきらめきを放った。何故それを知っているのか?よくテレビのドキュメンタリーでやっているだろう。それだ。



「……なんでそう思ったんだい?」

「うーん…、なんで、って言われると説明が難しいなぁ…」



ぶつぶつと独り言のように呟きながら、砂浜をくるくると回る名前。さながら自分の尻尾を追わえる犬である。まあ確かに、彼女は犬っぽいところもあった。あながち間違いではない。

そうして、暫くくるくる尻尾を追わえていた彼女は、閃いた!とでも言うようにパアッと表情を明るくさせた。納得のいく答えが見付かったらしい。僕は別で、名前に骨ガム…いや、コーヒーガムでもあげてみようかな、などと考えていて。いきなり駆け寄ってきた彼女に物凄く驚いた。わあっ?!と情けない声を上げて後退る。目の前の名前は首を傾げた。

…やめてくれ、僕だって男なんだから。そんなに近くじゃなくても話せるんだ、名前。しかも、僕は、旅をしている頃から、きみの事が。 なんとか赤くなっているであろう自分の頬を手で隠す。彼女はまた首を傾げた。



「そ、それで、結論はどうなったんだい?名前」

「あ、うん!それなんだけどね、まず、花京院くんは綺麗だよね!」

「…エッ?」



にこにこと爆弾発言(主に僕への破壊力が)を放つ名前は、腕を後ろに伸ばし、波打ち際をぴちゃぴちゃと歩く。惚けたようにつっ立つ僕の目の先で、風に靡くフレアスカートから覗く、白い足がやけに目に残る。うん、顔を背けておこう。そう決めた。


だってさ、花京院くんはまず、自分の信念を持ってるでしょ。それから、みんなをさりげなく気遣ってくれる。あと、すごい美人だよね。 だなんて、ふわふわとした、例えればクラゲみたいな柔らかさの笑顔で言うもんだから、顔をそっぽ向かせるという選択肢しか僕には残されていなかった。

あとはねー…、と言いながら、彼女はまたしても此方に近付いてくる。大丈夫、今度は、もう驚かない。 僕の前でまた足を止めた名前の髪は、大分温かさを増してきた、緩やかな風に吹かれる。名前が少し髪を押さえた。



「波にもまれて、少しずつ、少しずつ角が円くなっていったとこも、かな」



ああ、なるほど。
思わず目をぱちくりとさせてしまった。僕は、今となっては随分丸くなったものだが、最初はとてもじゃないが優しいとは言えないやつだった。DIOに肉の芽を埋められ洗脳され、そして承太郎への刺客として、この街へと辿り着いたのだ。それがどうした事か。逆に肉の芽を取り除かれ、気が付けば、とても大切になっていた。

ねえ、海の底の底、ずっと深い所で生活している魚が、いきなり光が沢山差し込む水面へと出たら、どうなると思う?きっと光に驚くのだろう。そして、まず、光を浴びたことすらないのだから、息すら上手く出来ないに違いないね。
……だけれど、もし、そこにずっと居続けたら。



「……名前。 そうだね、名前」

「?」

「僕は、もう水面の魚なんだ。きっと」




だって、もう、光無しには生きられないから。あたたかな温度を知ってしまったから。息苦しさはもう忘れた。寧ろ、きみの隣が、水面(みなも)なのかもしれない。なんて言ったら、きみはなんと言うだろうか。










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