シャンシャンシャン、という軽快な鈴の音と共に、この時期になるとクソとでもいう位耳に付くクリスマスソングが流れて来る。私が歩いている街中も例に漏れず外国人シンガーのこの世を謳歌するような歌声が響き、カップル共は甘ったるい雰囲気を醸し出していた。そう、今日は一年に一度のクリスマスイヴ。聖夜と言う名の恋人達だけがハッピーメリクリなイベントなのだ。

寧ろ性夜だろ?!?知ってるぞ私はァ……憎い、この世のカップルというカップル達全てが憎いィ…。対する私はといえば、今現在ぼっちで、そうぼっちでベッタベタなオーラに満ち満ちている戦場を進行しているのだ。独り身の私、いや、ついさっきまではそれなりのクリスマスを送ろうとしていた私が、憎しみのオーラを放つようになったのは何故か?それでは、原因となった出来事まで遡ってみるとしよう…。







「ピスティ、今日はクリスマスだね」

「そうだねぇ〜、どうしたの名前?」

「友達でパーティーしよ?友達だけで」



家を出て、ヤムの家にピスティと共に押し掛け、独り身クリスマスパーティーを送ろうと携帯をしながら街中を歩く。親?一人暮らしの私には無理な距離である。ヤムは研究と恋人、ピスティは最近彼氏別れたと言っていたので超ラッキー。みんなで一人を祝おうじゃーん!!陽もとっぷりと暮れた町並みは、イルミネーションの光でキラキラと輝いている。独り身でも友達がいればいいさ!ついでにケーキも買ってってやろう!と、私はルンルンとした気分で街路樹の間を通り抜け、ピスティに某緑色のSNSの続きを打った。



「なんか二度言ってるところが怖いよ…名前たんや」

「まあそれはいいの!そんな事よりも!ヤムん家押し掛けよ(ハート)」

「あ、ゴメンね名前!私、彼氏できちゃった(星)」



えっ…?私はそう呟いていた。むしろ、それ以外に言葉が出ない。あいつは…ピスティは、何という事だ、憎っき街中でイチャイチャとするカップルに成り下がってしまったのだ!思わず携帯を取り落とさなかった私を褒めてほしい。語尾に星マークとか付けやがってコノヤロウ仲間じゃなかったのか。真顔になった顔面とは対比的に、腹の中では黒いものが渦を巻く。イカン、アイツはもう抜きだ!!私は所謂KS、既読スルーというやつをして、ピスティとの会話画面を閉じた。

そうだ!まだヤムがいるじゃんヤム!あの子ならきっと研究漬けじゃん!途端に元気が湧いてきた。ヤムはメッセージを送っても気付かないので、電話をかけてみる。



「あ、もしもしヤムー?」

「名前ごめんっっ!今忙しいから…」



忙しいと電話越しに言ったヤムの後ろでは、ガヤガヤとしたざわめきが聞こえる。しかも、僅かに「ヤムライハちゃん、どうしたのかな?」と男の声が聞こえ、「い、いえ、友達からです!」とヤムの声。通話口押さえても聴こえてるかんな。私はそっと通話を切り、クリスマスと打ってみた。私の優秀なキノコキーボードは、いい言葉を教えてくれた。………メリー苦痢棲魔棲!!!







…というわけだ、二人と遊べること前提に家を出て来たワケだが、その本人たちが彼氏や、最近気になっている人達と過ごしている以上私が割り込む隙間もない。私は変に気分が沈んでしまい、クリスマスカラーが目に痛い道を下を向き、力なくトボトボと進んだ。
下を向いていたのがいけなかった。暫く進んだ所で、ドンッ、と前方から来た人にぶつかる。やってしまった、直ぐ謝るためにも私が顔を上げると、目の前にいたのは驚きの人物だった。



「名前…?」

「え…まさか……じゃ、ジャーファルさん?」



それは、以前働いていた職場の上司、ジャーファルさんだった。私は事情により前の職場をやめたのだけど、そこでとても世話を焼いて貰っていたのがこのジャーファルさんだ。お母さんのように思える人である。だからからか、彼の姿を見た瞬間ホームシックな気分になり、思わず涙ぐみながら泣きついてしまった。



「ジャーファルさぁ〜ん!!話聞いてくださいよぉ〜!!!」

「分かりました、分かりましたから名前、流石に街中で泣くのは止めてください」



いかにも仕事帰りだという風貌のジャーファルさんに引っ捕まえられ、ジャーファルさんがよく行くという居酒屋に案内して貰った。そういえばジャーファルさん…仕事帰りってことはまさかクリスマスも社畜してたのか…?!そう考えて、少し親近感を感じた。



 ー ー ー



「そうなんですよぉ!!ピスティったら、いつもなら私を無理矢理にでも遊びに誘うクセに自分の時は語尾に星マークなんか付けやがるんですよ?!」

「アイツはまた…乱れた交友関係を……」

「しかもヤムまでが!日がな研究しながらハァハァ言ってるのに今日に限って気になってる人と出掛けてるんですよぉ……」



そう言いながらグビッとカクテルを飲み干す。ジャーファルさんが連れてきてくれた居酒屋は、半べそだった私を気遣ってか個室タイプになっている所だった。有難い。私は酔った勢いもあってか、ぐちぐちと悪態を零しながらもジャーファルさんに愚痴を聞いて貰っていた。以前の職場の日々が懐かしい。
ジャーファルさんも、彼にしては割に早いペースでお酒を飲み進めながら相槌を打ってくれている。優しいなあジャーファルさんは……あーあ、



「もうジャーファルさんに彼氏になって欲しいくらいですよぉ〜!あはは!」

「……えっ?」

「まあー、ジャーファルさんは有能ですしあちこちから引っ張りだこ!女も選り取りみどりですね失敬!」

「名前……」



軽い冗談のノリで呟いてみる。勿論本気ではないし、その場の流れで彼も名前はちょっと……という返しをしてくれると思っていた。けれど、ジャーファルさんの様子が少し違う事に気付く。テーブルを挟んで向かい側に座っていた彼が軽く立ち上がる。えっ?

そして反対側にある私の頬に手を伸ばし、優しく両手で固定される。え、え、待って待って。ジャーファルさん酔ってない?確かに、今日は彼にしては大分早いペースで呑んでいた。しかも聞いたことある!泥酔レベルまでいくと性格変わるって!きっとそれだ?!と頭の中は大パニックだ。そんな私を気にもとめず、ゆっくりと近づいて来るジャーファルさんの顔。はぁ、と吐き出された彼の息と瞳の奥に、熱が篭っているように思えた。



「じゃ、ジャーファルさん冗談はよしてくださいよぉ〜!ね、」

「黙って下さい。貴方がうちを辞めてから、会いたくて仕方がありませんでした。……ずっと好きでした、名前」



突然の告白と、グイっと引かれた顔が彼の整った顔と近付く。正直な所気が動転していてまともな考えが出せそうにない。彼の口元が私のそれと重なった時、顔が沸騰するかのような感覚に襲われた。……ごめんねピスティ、ヤム、私もあんまり変わらなかったよ。店内に流れるクリスマスのBGMは、それどころじゃない頭の中から掻き消えた。









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