「あっ!来た来たー!名前ちゃん!」

「アイザック久しぶり!こちらがトワイニングさんとカートライトさん?わたし、アイザックの従兄弟(いとこ)の名前です。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」



天気のよい晴れた休日、たまたま従兄弟ののお兄様のお祝いにとモートンの家へとお邪魔していたわたしに、アイザックがパブリックスクールのお友達を連れて帰省すると聞いたのが数日前。アイザックの家では只今幽霊騒ぎで大変らしい。小さい頃からオカルト好きなのに幽霊は苦手なアイザック、変なの。

そしてアイザックが連れてきたお友達と会えるのが今日。彼が帰省してから次の日である。モートン家の執事(バトラー)さんに連れられて到着したのは中庭だった。
そよそよと吹きそよぐ風に、庭師さんたちの手入れした花壇のお花がゆらりと揺れてとても綺麗。わたしが幼い頃に来た時はまだここまで大きくはなかったけど、茶葉のいい香りがするのは変わっていない。


執事さんとお話をしながら時間を潰していると、玄関の方から走ってくるふわふわの髪の毛が見えた。あ、アイザックだ。後ろに引き連れてきた少し気の大きそうな男の子と、とっても可愛い女の子。わぁ…!こんなに可愛い子がいるんだ!思わず嬉しくなって張り切って自己紹介をする。女の子は黙っていて、緊張してるのかな?



「えーっと…、カートライトさんもよろしくお願いします!」

「お前はアイザックの従兄弟か、まあ、よろしく」

「はい!カートライトさんはトワイニングさんの婚約者さんですか?ストラドフォードは男子校ですしね」



青々とした芝生の上に設置されたアフタヌーンティーセットに移動し、それを囲みながら、シトリーさんと言うらしい、カートライトさんに質問してみる。トワイニングさんは名門貴族の方だし、カートライトさんみたいな可愛らしい人と婚約していても不思議じゃないよね。そう予想して投げ掛けてみると、突然トワイニングさんが飲んでいた紅茶を噴き出した。まだ熱かったのかな。



「ブッ……?!ゲホッゲホッ!!悪いが、俺はこいつと婚約者などでは断じてない!」

「ウイリアム、つまり私たちは似合いということらしい。さあ、遠慮なく私を選べ」



トワイニングさんのあまりの必死の説明と剣幕に、わたしの予想は外れていたと分かった。こんなに可愛いカートライトさんを放っておくなんて、そんな事があるの?今クッキーを摘まんでいる姿すらも気品があって美しく、わたしが男の子だったら絶対に放っておかないのに。思わず目を真ん丸にしてしまった。

横で楽しそうにそのやりとりを見ていたアイザックは、あははっ、と笑うとわたしに大きな爆弾を落とした。



「名前ちゃん、シトリーは女の子じゃないよ。僕たちと同じストラドフォードに通うれっきとした男の子なんだ!」

「…………えっ?アイザック、どういうこと?」

「言葉の通りだよ〜〜!シトリーは男の子なんだよ!」

「嘘………、カートライトさんが、男の子?神様あんまりだわ…!!」



輝かしいばかりの笑顔で言い切るアイザックに、わたしは頭を花瓶で殴られたようにフラフラとよろめく。そんな………!!トワイニングさんの婚約者じゃなかったことはともかく、女の子ですらなかったなんて…!これから交流が増えて、カートライトさんと二人で仲良くアフタヌーンティーをしたり、雑貨屋にお買い物に行ったりするという夢が儚く崩れ去る。

トワイニングさんはああ〜…、と言ったような顔をしているし、カートライトさん本人は普通にマドレーヌをもさもさと頬張っている。 待って、カートライトさんは気にしてないみたいな表情をしているけれど、男の子で女の子だと思われてたというのは嬉しくない事なんじゃないの?それに気づく。

わたしはサアッ、と顔から血が引くのがわかった。わたし、何て失礼な事を…! アイザックがのほほんと気にしなくていいよ〜、と言っているけど、この場に居続けるのが居たたまれなくなって、ちょっと失礼します!とだけ言ってお屋敷の中に引っ込んでしまった。……泣いてもいいでしょうか。



 ― ― ―



夕刻頃になって、 ようやく泣きたい気持ちと恥ずかしさがマシになってきたわたしは、部屋から出て紅茶でも飲もうと応接室へと向かった。こんな時は美味しいお菓子とモートン社の甘い紅茶を飲むのが一番だ。

がちゃり、とドアノブを捻り中へ入る。親戚だからここにいる間は紅茶やお菓子は自由に使っていいと言われているので、遠慮なく使わせて貰う。キーマンにベルガモットを加えたお茶…新商品だ。

鼻歌を歌いながらティーカップにお湯を淹れて蒸らし、その間にスコーンとジャムを用意する。今日のジャムはストロベリー。 紅茶の用意も出来て、さあ頂こうとしたその時だった。応接室の入り口が開く音。誰?目線の先に入ってきた人物を認識すると共に、ガタリとソファーから立ち上がってしまっていた。



「カートライト…さん……」

「……美味そうだな、私もそれが食べたい。用意してくれ」

「あ…は、はいっ!」



わたしは急いでもう一つカップを用意すると、ソーサーの上に置いてお湯で蒸らしてから紅茶を注いだ。その間カートライトさんは用意してあったスコーンをむしゃむしゃと摘まんでいた。…どうしてカートライトさんはわたしに何も言わないのだろうか。自分を男の子だというのに女の子だと思い込み、あまつさえ女の子がよかったなどと言い放ったわたしに。

ソファーに腰を下ろすカートライトさんにティーカップを渡すと、そのまま受け取り、少しだけ飲むとそれを机上に置いた。ドキドキと紅茶にもお菓子にも手を着ける気にもならずに、向かいのソファーで顔を俯けて目を反らしていたわたしにハッキリとした綺麗な声が掛けられる。



「お前………名前だったか、まだ昼の事を気にしているのか?」

「だってわたし…とても失礼な事を…!!」

「………スコーンだ」

「……………え?」

「私は別に気にしてなどいない、だからこのスコーンと紅茶で全てチャラだ」



カートライトさんの言葉に顔を上げる。あんな失礼をしたのに、許してくれるの?優しい。優しすぎる。目の前で揺れる透き通るような美しい髪、そして美しい瞳に釘付けになる。わたしは無償にお礼を言いたくなった。



「ありがとうございます…っ!」

「別にいい、それよりスコーンのジャムは他にないのか?美味い」

「それならマーマレードがありますよ!すぐに用意しますね!」

「ああ、頼む」



わたしが勢いよく立ち上がってマーマレードジャムを取りに行こうとすると、ソファーでお菓子を食べていたカートライトさんが一瞬ふわりと笑う。お屋敷で会ってから初めて見たほほえみ。わたしは動悸が速くなると共に熱くなった頬に意味が分からず、誤魔化す様にクロテッドクリームも持ってきますね!と応接室を出た。

わたしとシトリーさんが仲良くなる前の、恋と憧れの境界線を、わたしがまだ知らない頃のおはなし。





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遂に明日から始まりますね!!!アニメ魔界王子!!!!
わたしは今まで楽しみ過ぎて夜もシトリーちゃんの事を考えながらしっかり寝れました、はい。

何時ものごとくアニメが始まってサイトが増えてから書くというのは嫌なので、マッハで書き上げました!!!本当はシトリーちゃんシリーズにしたかったのですが遅筆故の無念ですね、ハハッ(泣いてる)

七夕から始まるテレビ東京とは違い、地方なので数日後ですがいちファンとしてずっと応援したいと思います!次はレオナール夢も書けたらいいな!では、この辺りで!







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