※少し捏造有り





吹きそよぐ風に乗る新芽の香り、道路の草むらから聞こえる鳴き声。今年も春がやってきた。そう。あの衝撃的な出来事から、二年の月日が過ぎた。

N、もといゲーチスが率いるプラズマ団によるポケモン解放活動。私やベル、トウコちゃん、チェレン…そしてトウヤくん。皆で戦って、Nの言葉を聞いて、別れや様々な事を経験した。



「…出ておいで、シキジカ」



赤と白が半分こ、ずっと変わらないデザインのモンスターボールを投げて私の相棒を外に出す。そうすると、ぱっちりとした瞳をきらきらと輝かせながら辺りを見回し、桃色の体躯をぴょんぴょんと楽しそうに跳ねさせた。


この子はいつまで経っても変わらないなあ。私はふっと頬笑んで、その温かみのある頭を撫でた。みんなはめまぐるしく変わっていっているのに、私は中々変わることができない。そう思うと少し、鼻の奥がツンとした。



「……トウヤが、居てくれればなあ」



あの後チャンピオンのアデクさん、そしてNを倒したトウヤは真剣な横顔で「僕は他の地方に行ってくるよ、そして、この地方では見れない物、学べない事を学んでくる。」そう言って次の日にはイッシュ地方から旅立って行った。


あの日から、もう二年。チェレンはジムリーダー、ベルはアララギ博士の助手、トウコちゃんはポケモンバトルの腕を更に磨いている。対称的に私は、トウヤが行ったあの日から変わっていない。いや、変われないんだ。
ずっと憧れで、他人やポケモンに優しくて、強いトウヤの事が好きだった。言い訳かもしれないけど、トウヤがいなくなってしまったから、私は前に進めていない。



「…シキジカ、そろそろ戻」

「名前?」

「…!」



そろそろ家に戻ろう、とシキジカをボールに入れようとしたところで、草をかさり、と踏みしめる音がした。そちらを向いてみる。そこには、ここにいない筈の男の子の姿。思わずごしごしと袖で目を擦る、雫よ止まれ。

「…っトウヤ、ずっと、待ってたんだからね」

「名前、ごめん。これからは、一緒に見に行こう、世界を」

「…ばか、もちろん」



差し伸ばされた手を取れば、ほら。彼と一緒なら変われる気がした。








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