「っくしゅん!」



突然、隣を歩いていた名前がくしゃみをした。ホグワーツの周りは春の陽気によりポカポカと暖かく、くしゃみをするような寒さでもない筈なのだけれど。僕がちらりと横目で彼女を見ていると、しきりに鼻をすすっては情けない声をあげている。



「うぅ〜…春なんか爆発すればいいのに」

「さっきからどうしたんですか、名前」

「レギュう…わたし、花粉症なの」



ずびずびと鼻を鳴らしながら答えた彼女になるほど、と頷く。まあ確かにこの学校の敷地内には木が多いし、花粉症だったらくしゃみもするだろう。同情はするが生憎僕にはどうする事もできない。マダム・ポンフリーの所に行くのが一番手っ取り早いんじゃないだろうか。

うるさくてごめんとか言いながら常備している目薬を差している彼女。確か、出身国である日本の物らしい。魔法薬で治すという発想が出てこないあたりが彼女らしいとも言える。



「マダム・ポンフリーの所で薬を貰ってきたらどうですか」

「だって魔法薬おいしくないんだもん…行きたくない」

「まったく呆れました、辛いなら少し我慢すればいいものを」



だってえ、と頬を膨らませる彼女が薬嫌いなのも知っているし、頑固な事も把握済みだ。いくら手のかかる相手だとしても、名前は僕のガールフレンドであるのだから。彼女の黒い髪が風に煽られる度に、くしゃみをしてしまうのは僕も心苦しい。

仕方ない、と僕は軽く息を吐く。無理矢理にでも彼女を保健室へ連れて行く事を決意した。さて、どうやって連れて行こうか。まあ最悪の場合は気絶させよう、と手荒な事を考えた所で隣から声が掛かる。



「レギュ?」

「ああ、大丈夫ですよ。ただ貴女を保健室に連れて行く方法を考えただけなので」



僕が満面の笑みでそう答えると、ぴしりと彼女が固まった。その直後、すぐに解凍された名前は、やだやだやだ!行きたくない!レギュ、今回は譲れないよ!ほんとに!とか言いながら花粉症で潤んでいる目を更に潤ませながら抵抗してきた。やれやれ、子供っぽいのだから、僕の彼女は。



「僕だって、貴女が嫌がる事はあまりしたくありません」

「…うん」

「だけれど、辛い表情はもっと見たくありませんからね。分かって下さい」



少し口元を緩めて、俯く彼女の頭を優しく撫でる。柔らかな髪の毛が心地いい。そうしていると、彼女が俯かせていた顔を上げて、頬を染めながら話し掛けてきた。そっぽを向いている目線は照れ隠しだろうな、と思う。



「…早く治しに行かないのは、レギュがこうやって構ってくれるから、っていうのもあるの」


そう言ってはにかんだ彼女を、僕は力強く抱き締めた。









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