唐突。そう、それは唐突という表現が一番正しいのだろう。二月十四日、バレンタインデーで学校の中はもちろん、街中が浮き足立っている日に、それはやって来た。



「名前さん、こんにちは。いやに機嫌が良さそうですね」



今日は朝から自分のクラスや他クラスの友達とチョコを交換し合って、過去最多のチョコの数を貰ったわたしは、とてもルンルン気分で学校を出た。スキップでもし出しそうな勢いだ。鞄の中に入った甘いお菓子を早く食べたくて、自宅へと急いだ、そんな時。

家の門の前に、誰か立ってる。夕方で顔がよく見えない為、まじまじと視線を凝らして確認した。うげ、とおもわず漏れてしまった声。彼は目ざとくそれに気付いて、ニコニコと笑みを浮かべながら、わたしへと寄ってきた。



「竜持くん。一体こんな所でどうしたの?」

「名前さんのチョコを貰う為に待ってました」

「そ、その、全部配り終わっちゃって…」



何時もわたしは、彼という小学生らしからぬ小学生にアプローチを受けているのだ。身長はわたしよりも高いし、物腰も柔らかで顔立ちも整ってるとか、いくらでも同級生から貰えるだろうに。何故か冴えない一般女子高生のわたしにお熱らしい。

毎年、予想しなかった子からチョコを貰えたりするので、いつも多めの数を学校に持っていっているのだが、それが裏目に出た。スクバとは別に持った紙袋には、貰ったチョコ。そして自分で食べようと思って、スクバからちょっとだけ出しておいたわたしのチョコ。竜持くんは、その違いをすぐに見抜きやがってくれた。



「多分、スクールバッグの方のチョコが名前さんのですよね?」

「違うよ!たまたまこっちに入れただけのチ」

「僕、寒い中ずっと名前さんの帰りを待ってたんですけどねー…」

「それは竜持くんが一方的にー…っていうか、わたしのチョコはもう無いって言」

「嘘は駄目ですよ、名前さん」



勝手に喋りだした竜持くんは、良心をちくちくと刺すようなイントネーションで語り掛けてくる。ほだされちゃ駄目だ、わたし。取り敢えず持っていないという嘘を貫き通そうと語気を荒げるが、言葉を遮られてしまった。竜持くんの深紅の瞳がきらりと意地悪そうに光る。



「本当の事言ってくれないと、奪っちゃいますよ?」



何を、とは言わないけど、分かるようにされたこの体勢。わたしの腰に手を回しながら、顎を指でクイ、と上げられる動作が自然に行われる。口の端をにやりと歪めながら、自信に満ち溢れた顔は近所の事なんかちっとも気にしていない。わたしの手から紙袋がどさりと落ちた。

なにこれ!こんなの聞いてない!近所の人に見られたらどうしよう!等と、混乱した脳内のわたしは一人緊急会議を始めるけれど、実際は人通りもないし家族はまだ帰る時間でもない。言葉通り、どんどん近付いてくる竜持くんの顔に、わたしは仕方なく言葉を絞りだした。



「持ってる、から、や、や、やめ、」

「―はい、よく出来ましたね、名前さん」



言ったと同時に離れていった竜持くんの手と顔に、肺から思いっきり息を吐き出す。やばい、心臓、いたい。 ばくばくと運動をする心臓と、綺麗に微笑む竜持くん。

離れた手が名残惜しいなんて思ったなんて、絶対に気のせいだ。









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