※現パロ




遂にこの日、二月十四日がやって来た。日本中でチョコレート会社の策略に乗せられた乙女達が皆揃いも揃って甘いチョコ菓子を贈る日だ。最近は定番である本命チョコや友チョコ、義理チョコの他に、逆チョコやら世話チョコ等の種類が多く出来てきている。

ここにも、そのチョコレート会社の策略に乗せられた乙女が一人。スクールバッグを大切そうに持ちながら、通学路を半ば緊張した面持ちで歩いていた。



(あ〜…!!緊張してきた…!)



小さく、数回息を吸って吐く。普段のバレンタインから友チョコは作ってたけど、今年は初めての彼氏チョコ、わたしは今ドキドキマックスだ。昨日の夕方から調理を初めて、キッチンから出たのは夜の十一時という新記録を叩きだした位には気合いが入っている。

必死の思いで作り上げたガトーショコラは、彼氏であるこの高校の生徒会会計のスパルトスへの思いの結晶でもあった。





 ー ー ー





そして放課後。今日は確か、生徒会の予算会議が終わった後に帰るってスパルトス言ってたよね。わたしが渡すまでにチョコ、他の女子から貰ってたらどうしよう。スパルトスはシンドバッド生徒会長のように面立って目立つタイプではないが、密かに人気がある。

彼に限ってそんな事はないと思うが、可愛い女の子なんてごまんといるこの高校で、他の子に靡いてしまう可能性があるかもしれない。ああ、早く終わらないかな、予算会議。ぎぎ、と開けるたびに軋む昇降口のロッカーからローファーを取り出し、緩慢にそれに足を入れる。


はぁ、と息をマフラー越しに吐き出せば、白い吐息となって夕焼けの空に散っていった。あ、手袋忘れてきちゃった。嫌な事が続いて、思考が段々悪い方ばかりに向いてしまう。…やだ、なぁ。



「朝までの気分とは、大違い」



正門の壁に寄りかかるわたしが呟いた独り言は、不安の色をはっきりと表していて。楽しみにしていた筈のバレンタインも、これだけの事で一喜一憂してしまう。さっきから横を仲睦まじく帰って行くカップルに胸焼けがした。



「名前、か?」



涙に薄い膜が張り、視界が少し滲んだ。その時に聞こえた声は、明らかにスパルトスのもの。それに驚愕したわたしを余所に、彼はわたしの右手をとった。



「…冷たいな。名前、どれだけ外に居たんだ?」



怒気を孕んだ声色で質問する彼に、わたしはうっと言葉を詰まらせた。悩みながら待ってたら一時間経ってたなんて言えない。これはお説教コース確定だ。

そんな事を考えていた物だからか、痺れを切らしたスパルトスは、掴んだままのわたしの右手を自分のポケットに入れて、正門の外へと歩きだした。これだけでさっきまでのモヤモヤが吹っ飛んじゃうとか、ほんとどうかしてる。わたしは薄く笑った後、耳を赤くしながら前を歩く彼にこう言った。



「初めての彼氏にチョコ渡しに、ずっと待ってたの。ハッピーバレンタイン」



彼は、わたしに聞こえるか聞こえないかの声で、「ありがとう」と呟いた。









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