いってきまーす。自分以外は誰もいない家の中に声を掛け、わたしはしっかりと鍵を閉めて外へと飛び出した。

このジョウト地方は気温もそれなりに温かく、のどかな雰囲気の漂う地方だ。わたしはここで生まれ育ち、今、漸く惰眠から目を覚まして出かけることにした。今日はお布団が離してくれなかったんだ、そんな誰に言うでもない言い訳をしながら、わたしはうんうんと頷く。ワカバタウンは今日も快晴だ。


特に行く所も決まってないのでぼーっと川を眺めていると、腰のボールの中にいたポポッコがぽん、と勝手に飛び出してきた。けど驚かないのはこのジョウトポケモン連れ歩きの習慣ができているからだ。流石にいつも連れ歩いているのに驚かない。
ぼへーっとわたしの周りをふわふわと浮かぶポポッコは、日光浴をしているのかな、気持ちよさそうだ。今日は天気も良いことだし、久しぶりに故郷のキキョウまで歩くか。すくりと立ち上がったわたしの肩に、ポポッコが未だぼへーっとしながら乗ってきた。さあ、行こうか。ワカバタウンの風車を回す風がわたしの髪を揺らした。



 ー ー ー



ゆったりと景色を眺めながら歩く事三十分くらい。今私が一人暮らししているワカバタウンからかなり近い所にあるヨシノタウンに到着した。いつもお花のいい匂いがするので、わたしはよく散歩がてらここに来ている。通常状態でぼへっとしているポポッコも、心なしか嬉しそうだ。さすが草タイプ。

あ、そういえばコトネちゃん元気かなあ。などと思いながら記憶に浮かび上がるのは、可愛くてハイテンションなワカバタウンに引っ越して初めてできた友達の顔。でもポポッコが一番始めか。キキョウからワカバまでの道すがら勝手にわたしのリュックに乗ってきた、ハネッコだった頃のこの子を思い出す。

軽過ぎてまさか自分のリュックに何か乗っいるなど一ミリも思わなかったな…こいつは今と大して変わらずぽへーっとしてた。けど引っ越し最初に出会った子だし、一緒にいたお姉ちゃんも良かったじゃん名前!初友達!とか人聞きの悪い事を言ったけど、晴れてわたしの手持ちとなったのだ。
捕まえる時はモンスターボールを見てもぽへーっとし、ボールは揺れさえせずに赤いランプが収まったのももう笑い話だ。まあ、可愛い相棒だからそれもチャームポイントに見えちゃうんだけどね。わたしはくるくると花畑に突っ込みながら回っているポポッコを見て笑った。そして、そのまま花畑から引っ張り出した。花壇荒らしちゃダメ絶対。



「ポポッコー、おまえはいつも何を考えてるのかわからんね」

「ぽぽー、ぽぽっこお」

「ちょっと待って何言ってるかなんとなく分かるような気はするけど花壇はもうダメだからね、花壇に行くなら海あるんだから砂浜行こうか砂浜」

「ぽぽおー」



柔らかな風に乗って潮の薫りがするこの街は、海に隣接していてとても居心地がいい。ワカバとどっちにするかわたしが最後まで悩んだところでもある。まだ花畑を諦められないポポッコを強引に連れ、わたしは歩いて数分ほどの砂浜へとやってきた。気持ちいい。

来る途中に花壇の事をすぐ忘れたのか、わたしの頭の上でポポッコは潮風に乗ってくるくるしていた。切り替え早い。若草色の相棒を腕のなかに収め、頭の黄色い花を触っていると、キキョウまで行くのが面倒臭くなってきた。今日はもうヨシノまででいいんじゃね、現代っ子は疲れに弱いのだ。そんなダメ人間な考え事をしている時、突然ごうっと風が前方から強く吹き付けた。海からだ。


風に吹かれたらすぐ流されるであろうポポッコをしっかりと抱き締め、細めていた視線を前へと向ける。そこには、純白の美しい身体をした、大きな大きなポケモンがいた。綺麗、その一言に尽きる。爽やかに晴れた今日の空の色と同じ瞳をちらりとこちらに向けると、このポケモンは砂浜へと降り立った。あまりの出来事に唖然としているわたしを差し置いて、ポポッコはそのポケモンに近づく。おっとポポッコ選手、動じていない!図太過ぎるー!
脳内実況が終わると、その大きなポケモンの背から誰かが降りてきた。マジ?ここでバトル挑まれたらわたし終了のお知らせ。



「ちょ、ポポッコ戻っておいで帰るよ早くほら」

「ぽぽぉー、ぽぽおん」

「ポポッコさんマジであなた戦うことになるからこれだと負けるから確実に」

「…この子、ポポッコって言うんだね。しかも仲が良いんだ」



さく、という音と共に砂浜を踏んだのは、ポポッコの身体の色と似たあちこちに跳ねた髪の青年だった。おおふ、イケメン。だが!いきなり話し掛けてくるとか!まじでバトルのパターン!!わたしに話し掛けてくる彼から少し後退る。ポポッコ、ぼけっとしてる暇ないからあなたマッハでやばいから。

白い大きなポケモンはわたしに近付く青年に擦り寄って、ゆっくりと目を閉じた。一方わたしのポポッコを向いた青年は、まるでポポッコと話しているかのように相槌を打った。何だろうか、気になる。惑星のような形のネックレスをしゃらりと揺らしながら、青年は改めてわたしに話し掛けた。



「キミ、名前って名前なんだ。出身はキキョウタウンで今はワカバタウンで一人暮らし。趣味は惰眠を貪ること、大好物はオムレツ、最近の悩みはよくポッポに髪の毛をつつかれそうになること」

「ぅえ…?」

「で、このポポッコとはハネッコの頃から一緒にいる。ポポッコ、キミが大好きなんだね、ぼーっとしてても何してても世話焼いてくれるのが嬉しいって言ってるよ」

「え…、え?ポポッコがそんな事を?というかポケモンと話、え、」

「ボクの名前はN、こっちはレシラム。ボクはポケモンと話す事ができるんだ」



爆弾発言をしたNという何ともまあすごい名前の青年は、口元をふわりと緩ませた。………波乱の予感がする。わたしはぽぽっこー、と言いながらわたしの肩に着地したポポッコにツッコミを入れた、何話してんねん。アカネさんの口調を真似しても、この悪い予感は外れる気がしなかった。





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だいぶ遅れましたがアニポケエピソードN放送記念!続くかもです。







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