その朝、僕は何時もの時間より早く起床した。段々と寮対抗クィディッチ杯、しかもグリフィンドールとの試合が近付いてきているからと、僕達のキャプテンも気合いが入っているらしい。確かに、あんな馬鹿な兄と一緒に派手な悪戯をやらかしていると専らの先輩なんかに、スリザリンのシーカーとして負ける訳にはいかない。

少しばかり肌寒い寮の部屋で着替えを済ませ、朝早いため他の寮生を起こさないよう談話室を出る。そうすると、ふわりと甘い薫りが一瞬鼻を霞めた。そうか。今日はハロウィーンだ。ホグワーツ城のどこで作っているかは知らないが、厨房があるのだろう。思わず、先日恋のキューピッド役として"親友"(彼女はそう思っている)となってあげた僕としては、アイツが今日の夜うまいことスネイプ先輩と接近出来るのか甚だ心配である。おトボケ気質ななまえは何かをやらかしそうな気がしてならない。フォローは何とかして…やらない…と……。


ああ、そういえば何で朝からアイツの事を心配してやらねばならないんだ。まぬけ面のアイツの為に頭を悩ませていたのが急に馬鹿らしくなる。今は自分がスニッチを掴み取る構想を練ろう。そう考えを改め、頭を軽く振り外へと繋がるアーチを潜った。



 ー ー ー



ざわざわと騒がしさを増していく大広間前の廊下で、僕は大きな溜め息を吐く。時刻はもう夕食の時間に差し掛かるところだ。大広間の開け放たれた扉からは、パンプキンパイやカボチャジュースなど、いかにも空腹の生徒を誘うような香りが漂っていた。だが、それとこれとは話が別だ。身長差のため、なまえを軽く見下ろす形になる。そんな僕にぴくり、と肩を揺らした目の前の僕の"親友"さんはといえば、冷や汗をかきながらあちらこちらへと視線を泳がせた。


「れ…レギュ………」

「言い訳は聞きませんからね。僕が折角アドバイスしてあげたように、何故誘うだけのことが出来ないんですか?」

「だって緊張したしぃ………」

「普段僕にしているように五月蝿く誘えばいいでしょう」

「………レギュは特別だもん。一番仲いいし、親友だし」


ぶちぶちと言い訳がましく弁解をするなまえの言葉に、不意を突かれたようになる。そういう言葉はスネイプ先輩に言って欲しい、本当に残念な親友である。……でも、確かにこいつならそうかもしれない。 この前参考文献として読んだ本にも載っていた気がする、"本当に好きな相手の前ではいつも通り振る舞えないものです。"と。全く、僕には協力すると言った以上は責任がある。取り敢えずはこの"親友"の話を聞いてやることにしよう。



「……分かりました。スネイプ先輩は一応僕らより年上です。だから、作るべき時に作るべき相手と思い出を作ってくださいよ」



今回は特別ですからね?話なら聞いてあげます、みっちりと。

少し呆れながらもそう言えば、目の前のなまえはれ、レギュたーん!!と感涙しながらタックルをかましてきた。痛い!骨が粉々になってしまいそう、と表記してもいいレベルである。怪力なトロール注意、と貼り紙を貼り付けたい。コイツは見た目に反して力が強すぎる。僕はべし、と仕返しになまえの頭を叩き、早く行きますよ!と彼女を急かした。







「えー!わたし普段通り精一杯振る舞おうとしてるよ!そもそも"女の子らしさ"って何なの?!」

「そうですね………あなたに致命的に欠けている最大のもの、とだけ言いましょうか。もうちょっと淑やかさを身に付けて下さい」

「わたしこんなに女の子女の子してるのに…!ヤバイよアンナよりも女子力高いわたしなのに」

「少なくともブルームさんの方がなまえより数倍は"女の子らしさ"というものがありますよ。馬鹿ですかあなたは」



なまえの質問に僕なりに答えてやる。すると、カボチャジュースをぐびぐびと飲み干し、ダンッ!と机に叩き付けながら「なんでだよぉ〜!!」と管を撒くなまえ。ほら、そういう叔父さん臭いところですよとは口が裂けても言えない。いや、言える。酒が入っている訳でもないのに僕に絡んでくるコイツはいい迷惑である。机に項垂れてアンナはさぁ〜…、と語りだすより前に、スネイプ先輩と仲の良いエバンズ先輩を見習うべきだ。彼女はグリフィンドールだが。

蝙蝠がバサバサと何匹も、何百匹も飛ぶような魔法が天井にはかけられている。僕らの頭上にはふわふわと浮かぶ幾数もの蝋燭が。これを見て凄いわ!とか、幻想的ね…と言えるようになるまでは女の子らしいとはとてもじゃないが言えないだろう。



「まず、あなたは身の回りに気を配っていますか。僕が見てきた限り、制服はシワだらけ、髪は寝癖がついたままの日がよくあるみたいですけど」

「げっ、レギュたん細かいよ〜…」

「誰のためだと…。とにかく、服装とか、気を付けられることには最大限気を付けて下さい」

「……はぁい」

「良く言うと、なまえは明るくて前向きな所が取り柄なんですから、身の回りを気を付ければあの人の目にも留まるんじゃないですか?」



少しやる気を与えてやらなければコイツはすぐにダれる。ぐさぐさとフォークで、皿に取ったサラダのトマトを刺しているのがいい証拠だ。少し褒めてやるだけで、ほら、目をパアッと輝かせた。そんなコロコロと表情が変わる相変わらずさに、少し可笑しくなってクスクスと笑う。するとなまえが隣で「レギュ女の子らしい笑い方だねー!ぷふふー!!」と笑いだす。そんな事を言うコイツにはこうだ。空き皿チョップ。脳天へと綺麗に落としてやった。
いったー!皿粉々になるよ?!とかなんとか言いながらジタバタするなまえにまた笑った。やっぱり、なまえといると楽しい、と感じる。ちょっとだけだが。


僕は「貴方のタックルの方が骨が粉々になりそうでした」と言ってやろうか、と口元を緩ませる。スリザリンのテーブル上では、蝙蝠が皿のパイを取り損ねていた。






4





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -