ホグワーツの校門に寄りかかり、城から出てくるのを待つ。待っているのは誰か?それはなまえの事である。そう、今日は待ちに待った(僕はそんなに待ってはいないが)ホグズミード行きなのだ。


珍しいことに今日は雲がまばらに浮かぶだけの青空で、まあ今日は折角の晴天だから、となまえに普段よりは優しくしてやらなくもない気分になった。良い友人を持ったとアイツには感謝して欲しい。
僕は一年の時からと同じように(ホグズミードは三年からだけど)彼女に強引に誘われたが、「いいですよ。バタービールでも奢ってくださるんですね?」と答えるようになった辺り、なまえという友人と過ごすのを中々楽しいと感じてきているらしい。

というか、自分から"レギュー!今週土曜はホグズミード行きだね!行こう!行こう!!"とかなんとか言っていた割に、遅い。普通誘った側なら五分前には来ていて欲しい。どこをほっつき歩いているのかは知らないが、これ以上待たせるのならば本の角の刑を執行しようと心に決めた。アイツの都合なぞ知らない。


「レギュー!遅れてごめーん!!準備手間取っちゃった!」

「遅い。何分待ったと思ってるんですか、これは本でも買って貰わなければ気が済みません」

「な、なんだとうー?!せめてバタービール!バタービールにして!」


ホグワーツ城の方からザッザッザッと騒がしい足音。これは間違いなくミス・ルーズ(時間に)ななまえのものだ。僕の時計の長針が指していた時刻は、もうとうに待ち合わせの時刻を二十分は回っていた。……自分から、誘っておいて………。

天気がいい事に免じて優しくしてやろうか、などと最初は思っていたが、前言撤回だ。寧ろファーナンキュラスでもしてやりたい位にはイラッとした。


「分かった。レギュ……間を取ってハニーデュークスの新作はどうでしょう」

「仕方ありません、それで手を打ちましょう」

「さっすがー!レギュたんオットコマエー!」


ひゅーひゅーとか言いながら僕の背中をバシバシと叩くなまえは、いちいちボディータッチが多い。無意識に誰にでもしてしまうらしく、触られる側としては迷惑極まりない。一年生の頃は触らないで下さいと叱咤を飛ばしたものである。今はどうか?勿論、本の角を無言で落とすか、呪いを軽く掛けてやるだけだ。慣れとは怖い。


そうこうしているうちに、ホグズミード村に向かってダイアゴン横丁ではしゃぐ子供のように駆け出すなまえ。ああ、頼むから保護者とその子供みたいな構図になるのだけはやめてくれ。僕が訝しげな目で見られるから。僕のげんなりとした心境を知らず、なまえは三本の箒へと向かって一直線だった。慣れだ、多分また二年も経ったら慣れる。自分に言い聞かせた。



 ー ー ー



「え〜っと、三本の箒は行ったし、グラドラグスでセーターも買った。ハニーデュークスも行ってスクリベンシャフトで羽根ペンも見たし…」

「………まだどこか行く気ですか、なまえ。金欠とか言っていたのは誰でしたっけ?」

「ち、違うし!ちょっと行ったとこ確認してただけだし!さ、あとは談話室まで帰ろー!!」


おー!と掛け声をしている彼女を横目に、ホグズミードの中央を通るハイストリート通りを歩く。もうホグワーツ城の近くだからいいが、何でまだあんなに元気が残っているんだ。毎度の事ながらなまえの馬鹿元気さにげっそりとする。
僕はなまえがゾンコに行こうと言い出した時点で体力が底を尽きかけていた。二年の十月のクィディッチ選抜からシーカーとして抜擢され、約一年クィディッチをしていたお陰で体力はついたと思う。けれど、これはどう考えても体力的なものじゃない。心的疲労からだ。主になまえの子守りの。


疲れを引きずる脚を動かし、一方買った物を持ちはしゃぐなまえと地下のスリザリン談話室の前へと辿り着いた。疲れた…。三本の箒で談笑しているうちはまだ最初だったから少しは楽しかったのだろう。後半戦は早く帰って談話室でくつろぎたい気持ちで一杯だった。

なまえが「サラザール!」と合言葉を言い、石壁から隠された扉が出てくると、目の前の友人は直ぐ様談話室へと入る。それに習って僕も入ると、そこでは何故か固まっているなまえが居た。


「……なまえ?何を固まっているんですか」

「あ、す、スネイプ先輩おはようございます!」

「おはようとは何だ。もう夕方だろう。それと、ブラックが後につかえているようだが」

「間違えた…!!れ、レギュ、ちょっとだけ待ってて!ごめん!」


何故かいつもの煩さは身を潜めて、所々裏返った声で話すなまえと、眉を顰めている五年のスネイプ先輩が目に入る。


「分かりました。手早く済ませて下さい」

「う、うん。すぐ終わるから!」

「ブラックを待たせているのだろう。ほら、これが頼まれていた本だ。これならお前でも理解できるだろう」

「あ!ありがとうございますスネイプ先輩!!」


先輩と話す彼女を見て理解した。
――なるほど、なまえはスネイプ先輩の事を。
普段よりも心なしか血色の良い頬。頭がガンガンしてくるような錯覚さえ覚えることもあるトーンの声は、しおらしく小さくなっている。あまりの分かりやすさ。なまえの横顔を見て、へぇ、あんな顔もするのか、と思った他に何もなかった。


 ー ー ー


「レギュ待っててくれてありがとー!!」

「…全く、感謝するなら僕の皿からパイを持っていこうとする手を止めて下さい」

「あ、バレた?」


バレた?じゃありませんよ。と返すと、なまえは大広間の椅子に座りながらいつものようにヘラリと笑った。マヌケ面というのが一番正しいであろう笑い方だ。



「――で、なまえ」

「ん?」

「スネイプ先輩の事、好きなんでしょう」



パイを一心不乱に頬張っているなまえがこっちを向き、一気に咳き込む。汚いからこっちを向かないで咳いて欲しい。ああ、そんな反応をするから余計分かりやすいんだ、ということを本人は全く分かっていないようだ。急いでゴブレットからジュースを流し込み、わなわなと震えながら何でわかるんだとでも言いたげな目でこちらを見てくる。

僕はガヤガヤと騒がしいスリザリンのテーブルで、目の前のまぬけ面を呆れた顔で見た。そして、辺りに聞こえないくらいの抑えた声で僕は言ってやる。



「あんなの、誰でも見れば嫌でも分かります。…貴方だけでは到底先輩に好いて貰えるところが想像できないので、僕が協力してあげましょうか?」

「………えっ!ほ、ほんとに?!レギュたんさっすが!ありがと〜!!」

「仕方なく、です。見てしまったものは仕方ありませんからね」



僕がそう言った途端、なまえはぱあっと目を輝かせた。飛行訓練の練習に付き合うことになった時と同じだ。だが、今回は興味があった。いつもいつもへらへらしていて、そんな馬鹿で間抜けなアイツが恋など、興味の対象にならないほうが可笑しいだろう。


僕は大広間の天井に広がるビロードを見上げて、なまえに皿に乗せられた、酷くビビッドな空色のクリームのケーキを見た。この色は、流石に食べる気がしない。思わずハァ、と溜め息を溢した。







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