わたしの目の前で大転倒したこのランドセルの少年は、とても不思議な髪型…いや、前髪をしていた。夕焼けこやけという言葉が一番ぴったりな今の住宅街は、梅雨が近いからか知らないが少し湿り気を含んでいる。スクリと立ち上がった彼は失礼します、とだけ大人びた返事をして踵を返そうとした。………あ。



「ちょっと待って!」

「………?何ですか?」

「膝、擦りむいてる」

「…ああ、これくらいどうって事無いので。では、」

「こらこら、そんなに血出てたら痛いでしょ?待ちなさい」



怪訝そうに足を止める少年の膝を見る。派手に転んだからだろう、出血大サービス!って程ではないが、血が膝小僧からだばだば出ていた。うわあ…よく泣かなかったなあ、凄いぞ少年。小学生のわたしなら確実に大泣きモノだ。

まだわたしの次の挙動を待ってくれている少年を横目にわたしは鞄を漁る。えーっと、アレは何処にやったっけな…。ガサゴソと発掘作業を続けること一分。あった!あったよー!わたしにも女子力というものが!!
わたしが鞄から取り出したのは大きめのバンドエイドと消毒液。美奈達がよく転んだり、友達と遊んだりして帰って来ると怪我をしている事が多いため入っていることがあるのだ。ちなみに確率は五分五分、うん、女子力今日は高いね!



「はい、じゃあ少年膝出してねー」

「だから、別に痛くもありませんって、」

「ちょっと染みるよー」

「、っ!」

「で、バンドエイドを貼り付けて…はいおしまい!傷口にバイ菌が入ったらダメだからね、良かった良かった」



処置が終わった後、小さい子限定で向ける一〇〇%スマイルを向けたらばつの悪そうな顔をされました。強がりなんだなあ、小さい子はやっぱり可愛い!そして、目の前で暫く立ち止まっていた少年は、ありがとうございました、と小さく呟いて走り去って行った。おお、速い速い。

赤髪のような桃色の髪のようなきれいな髪をふわふわと靡かせながら去って行く少年の後ろ姿を見送る。…ううむ、あの髪型、見覚えがある気がするんだけどなあ…。何処かで会ったのかな?
と、どうでもいい事をつらつらと考えていると、何かが落ちているのに気付く。さっき少年が転んだ所だ。わたしは鞄のジッパーを締め、すたすたと落とし物に近づいた。これ、ランドセルに付いてる名札だ。転んだ拍子に落ちたと思われるそれには少年の名前が。



「ええっと、名・前は…」



その名札に母親のものだろうか、しっかりした丁寧な筆跡で書かれた名前を見た瞬間わたしはあまりの衝撃に固まってしまった。………マジ、ですか? 名札を持つ手が震える。本当なら、オタクとしては喜ぶべきなのだろうけど、今すぐこの名前を見なかった事にしたい。



「花京院、典明……?」



つまりわたしは、『ジョジョの奇妙な冒険』の世界に来たという事が確定してしまったという事なのだ。ワアイ!命の危険倍増だね! 通りで少年…花京院の髪型に見覚えがあったハズだ。三次元だから分からなかったけどあんな特徴的な髪型忘れる奴いねーよ!!むしろわたしジョジョラーだよ!!!

わたしはいとこのお兄ちゃんの影響でジョジョラーになっていたのだ。これが幼い頃からの英才教育ってヤツか……畜生! キャラが安定しないわたしだが、つまりわたしが何かの能力と思っていたのはわたしのスタンドと言うことになる。「スタンド使いは惹かれ会う」という決まりをまさかわたしが忘れる筈がないので、まあさきっきのはそういう事だろう。

よくある夢小説展開ならば、まあ主要キャラを避けて行動するのが一番ノーマルだろうけど、ジョジョともなると話が違う。例えば、わたしがもうスタンド使いだというのなら、花京院は生まれながらのスタンド使いだ。ジョジョの世界のルール、スタンド使いは惹かれ会うというのに乗っとればエンカウントは避けられない事実。腹を括れなまえ……逆に考えるんだ…「会っちゃってもいいさ」と……。



「もう会うことが確定してるなら、まあ会わないでずっとこの世界にいるよりも元の世界に帰れる確率が上がるって事だよね?」



そう考えたら勇気が湧いてきた。可能性はゼロじゃない、まだわたしの行動次第。そして、わたしは小学生時代の花京院典明と関わる決意を固めたのだ。 日が長い夕暮れの住宅街は、カラスの鳴き声が遠くから風に乗っていた。







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