ころん、と掌の上に乗った光るビー玉。あくまでそうとしか言い様が無いそれは、わたしが持ってきた覚えなど一切ないものだった。足元でお座りをしているココナッツが首を傾げる。……なに、これ。

コオロギだか何だか知らない虫の音が辺りから聞こえるが、そんな音すら耳に入らない程に、わたしは混乱していた。一応言っておくと、わたしは手品やトリックの類は別に得意でも何でもない。…あと、こんな暖かい光を放つビー玉を見たことは全くない。不思議と嫌な感じはしないものの、疑問は湧き上がるばかりだった。



「とりあえず、こんな所で悩んでても埒が明かないね?ココナッツ」

「キャン!」



わたしのモットー、「長い事悩み続けても何も変わらない」。周りにはわたしは悩みが無いように見えるらしいが、実は人一倍周りを気にしてしまうタイプだ。だが、これまで十七年間、今の見た目年齢で言うと十五年間生きてきて学んだ事がこのモットーである。

このビー玉は家に持って帰って調べてみよう。そして明日からあの編入届にあった中学に編入するまで町中を探索して、何か手掛かりを捜そう。わたしはそう決めると共に、軽く上を向いた。夜の澄み切った空気に浮かぶ満月がとても綺麗だ。その月に先程のビー玉を翳してみると、シルエットがぴったりと当てはまる。するとそのビー玉は月と一体化したかの様に消えてしまった。

もしかして、わたしの超能力だったりしてね。ふふっ、と笑いながら見た月には、兎が餅をつく影が見えていた。



 ー ー ー



……ついに、来てしまった。中学校編入の時が。というか何なんやねん手掛かり見付からへんってェ!!おっと、ついつい怒りで関西弁になってしまった。まあそれは置いておくと、あのビー玉の日から一週間が経過していた。編入届にワープロで記入されているのは今日の日付である。町中の事は調べまくったために道は覚えているから問題ない、問題ない…んだけど………!



「よく考えたら中三ってこんな中途半端な時期に受験学年かよおおおおお!!」



思わず叫んでしまった朝のテーブルinリビング。なまえは正直馴染める自信がありません。わたしが在校生でも受け入れられない時期だと思いますしおすしだ。残酷にも刻々と時間を刻む秒針は、もうすぐ出発しなければいけない時間に近付いてきていた。
…あーもう!どうにでもなれ!ココナッツをケージに入れて玄関へと歩きだす。無駄に外は、明るかった。



「編入生のみようじなまえです。こんな中途半端な時期に来たけど、みんな仲良くしてくれたら嬉しいです!」



わたしの出来る限り最高の社交的なスマイルで自己紹介をする。口元が引きつっている感覚がバリバリだが、そんな事を気にしている余裕は無かった。この、クラスの中学生達の視線が矢の様に刺さりまくる教壇の上では。

わたしは意を決して中学校にまでたどり着き、ようやく自己紹介まで漕ぎつけていたのだ。美奈、涼、お姉ちゃん、頑張るからね…!と心の中で一人自分を励ましていた。すると、周りの椅子に座っていた中学生達が皆笑顔で拍手をしてくれた、掴みはオッケー…!



 ー ー ー



あの後、クラスの女子とは連絡先を交換し合って、わたしは家電の番号を教えておいた。スマホと通話しようとしても、どうやら新聞の日付を見たところ一九〇〇年代のようだから通話は出来ない事は間違いナシ。うーむ。

下校中の道を歩きながら周りを見回したりする。大分わたしはこの町に慣れたみたいだ、人間の順応性の高さをしみじみと実感した。青空に茜色が混じったコンクリ道路をゆっくりと踏み進んでいると、視界の目の前に映り込んできた少年がいた。


彼はスタスタと早歩きでわたしを横切った。と、思った。ずだんっ、という大きな音と共に、派手に転んでしまった少年。これは絶対痛いよね。美奈達の世話をよくしてきた感覚で痛そうだと明らかに思う音だった。



「君、大丈夫?」

「…いえ、大丈夫ですのでお構いなく」



そう大人びた答えを返しながら少年は立ち上がる。小学生なのだろう、黒いランドセルを背負いながら彼は砂を払った。そんな彼の髪はふわふわとしていて、少し赤みがかった綺麗な髪だった。―しっとりと緩やかな風が、その髪をふわりふわりと夕日に揺れていた。







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