「ふあぁ…、よく寝た…!」
軽快で爽やかな音楽が、耳からわたしの脳髄へと響き渡り、眠気を引きずる眼をゆらりと開けた。あー良かった、今日が土曜日で。何時もは早めに設定した目覚ましを、まだ寝てたいわ!という様に不機嫌にストップさせるのだが、今日はゆっくりと起きられた。
カーテンをのそのそと開け、パジャマから寝間着にと着替えてベッドを這い出る。休日最高。一人幸せを噛み締めていると、時計の針はもう午前九時を指していた。あ、日曜だったらヒーロータイムから何まで見逃してた危ない。
朝食でも食べようかと自室を出て、朝の光が差し込む廊下を歩く。階段の近くの扉をノックする、そこは愛しの美奈と涼の部屋だ。…あれ?可笑しいな。返事がない。わたしは、早起きな二人にしては珍しく寝ているのだろうと解釈し、段差を一段一段と降りて行った。
「お母さーん、おはよー」
少し間延びした声でリビングに声を掛ける。いつも扉を開けると漂ってくる母自慢の朝食の匂いも、しなかった。心の内で、何か不安の様なモノがざわざわと騒ぎだす。これは、予感、だ。
リビングから飛び出したわたしは、直ぐ様二階の美奈と涼の部屋の扉を勢い良く開ける。ばんっ。大きな音だけが、がらんとした部屋によく響いた。部屋の中は二人はおろか、家具や生活用品、ティッシュ一枚でさえ落ちていなかった。…嘘、でしょ。
喉に氷を詰められる様な感覚に陥る。落ち着け、まだお母さんとお父さんの部屋は確認してない。
そう無理矢理にでも自分を納得させないと、気が狂いそうだった。だが、それも徒労に終わるのだけれど。
「………っ、ぅ、あぁ、」
やはり予想していた通り、母と父の部屋にも何も、いや、家中にわたし以外が生活していた跡など残っていやしなかった。自然と漏れた嗚咽は、悲し過ぎるとかえって泣けないというのを肯定するかのように、涙さえ流させてくれない。待って、どうして。こういうのは二次創作や、夢小説の中の設定じゃないの。有り得ない、と口から零れ落ちた声は、酷く擦れていた。
ー ー ー
「……………」
もうどれだけ長い事座っていただろうか、茫然自失としたわたしは、フラフラとリビングの椅子に腰掛けたまま正午まで何も出来ないでいた。…あと、気付いた事がもう一つ。あれだけ気にしていた体型が、ほっそりとスレンダーになっていたのだ。まるで、中学三年の頃の様に。
これはきっと間違いなんかではないだろう、だって身長まで縮んでいたら、認めざるを得ないじゃない。…こんなトリップ特典みたいなのなんか、いらなかったから、わたしを昨日に戻らせて欲しい。ココナッツの散歩であんな一言、言わなきゃ良かった。
「!……ココナッツ!!」
まだ、希望はあった。瞳に光を映したわたしは、テーブルの上に置かれてあった編入届と、それから通帳と印鑑を無視する様に椅子を蹴り立ち上がったのだった。
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