「ジャンケンホイ!あいこでホイ!ホホイがホイ!!」



朝っぱらから馬鹿のようにジャンケンをする声が王宮の中庭に響き渡る。そこに見える影がふたつ。それはシンドリアの魔導師の一人なまえと、八人将のムキムキファナリス(なまえ呼称)ことマスルールであった。で、こんなジャンケンをする理由も実にアホらしいものなのだが。



「っああああああ!!また負けた!!!」

「…………弱い」

「私はマスルールみたいにジャンケン強くないの!」

「………はあ。まあ、それよりちゃんと約束守れ」

「うぐぐぐぐ…!分かったよ!ちゃんと探してこればいいんでしょ変態やろー!!」



そうなのだ。これはよくある馬鹿らしい勝負であり、賭け事でもあった。このマスルールの百九十五センチメートルの身長よりもかなり小さなこの少女、ピスティと同じくらいの年齢の少女と賭け事をしているのである。ルールはシンプルに負けた方の言う事を一つ聞くというものだ。

ジャンケンがべらぼうに弱く、更に年下で扱いやすい(イジりやすいとも言う)なまえが暇なマスルールの前を通り過ぎたのがいけなかった。簡単に口車に乗せられ早十連敗の彼女は、最後の一戦でも負け、マスルールのタイプだという巨乳美人を連れて来なければいけなくなってしまった。

悔しい…!悔しい…!!いつもムキムキしてるだけのアイツに負けるなんて!と、なまえは内心地団駄を踏みまくっていたが、ファナリスであり動体視力の良いマスルールにとってジャンケンの出す手を見て変える事など造作もない事だと彼女は忘れていた。
まあ負けてしまったんだ、仕方ない。と腹を括って中庭を遠ざかって行った彼女を見て、無表情なマスルールは何かを思案している様だ。その内容は、魔法で探せばいいのに、という正論であることは彼女も知らない。



「あれ〜ッ?おかしいな…ここに居たと思ったんだけどな、なまえ」

「………どうしたんすか、先輩」

「いや、ちょっとなまえと飲みに行く約束しててさ」

「………はあ」

「酒を限界まで飲ませてみたら、幼児体系なまえはどうなるのか!!!…なァ〜んて……、ウワッ!」



そんな冷静なマスルールの前に現れたのは、いつもおちゃらけていて尊敬のしどころがない先輩、シャルルカンであった。何やら誰かを探している様だったからマスルールは声を掛けたが、ふざけた言葉が耳に入ったため、マスルールは軽く苛立ちを覚える。

どちらかというと、なまえとマスルールの関係は、イジりイジられる関係であった。マスルールは一つつけば十返ってくる面白い反応に楽しがっていたし、何だかんだ言いながらも仲が良かった。
だが、自分以外の人間(主にシャルルカン)に彼女がイジられていると、イラァ、としたのだ。よりにもよって先輩如きに。だからシャルルカンが冗談で言っていたのは知っているが、先輩が喋っている途中に腹パンを食らってもらった。言うなれば、シャルルカンは犠牲となったのだ…だ。



「痛ってエエエエエ!!何すんだよマスルール!」

「……はあ。先輩にイラついたんで」

「理不尽過ぎだろコラァ!だからって先輩を攻撃すんなよ!」

「………、あ、なまえ帰ってきました…」



マスルールに怪訝な顔をされながらも必死でその理不尽さを伝えようとしていたシャルルカンだったが、話している途中で耳の良いマスルールがなまえが帰ってくるのに気付いた。その言葉を聞くと、彼女を探していたシャルルカンは今にもマスルールに掴みかからんとしていた腕を引っ込め、彼女を再び探し始めた。


まあ、結局なまえが連れて帰って来たのは一応巨乳で美人だが、マスルールのいる八人将の同僚であり先輩、ヤムライハであったというオチだった。正直いくらグラマーであれ、先輩には興味というか毎日のように顔を突き合わせているのでそんなものすらない。

なまえは本気で馬鹿なのか。怪訝な視線で彼女に威圧を与えていると、またもやKY(空気が読めない)シャルルカンが、元々の予定だった飲みを小さな体躯のなまえの頭を撫でながら提案している事に学習しない先輩だと苛つくと、先輩に喧嘩を売っていたヤムライハに話し掛ける。



「……ヤムライハさん」

「だからぁ!………って、マスルールくんどうしたの?」

「この人達だけだったら店に迷惑かかるんで……、俺達も付いて行きません?」

「えぇ〜…?こんな剣術バカと?でもコイツと可愛いなまえを二人で行かせられないわね…いいわ」

「……了解っす」



猛抗議するバカ二人組は置いといて、サクサクと二人だけで話を進める。何故かシャルルカンとなまえを二人だけは行かせたくなかった、まさにこれは愛犬をぽっと来た遠い親戚に預ける状況の様だとマスルールは考えた。なるほど。

その後、飲み屋で酔い潰れたなまえを運ぶマスルールを心配しながら、おんぶされた彼女の頭を嘴でつつくパパゴラス達が目撃されたとか。








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