※現パロ




柔らかなベッド、柔らかな日差し、柔らかな朝食の匂い、柔らかな君の声が、僕の幸福の形だ。


ピピピピ、と目覚ましの些か煩いアラーム音が聞こえてくる。凄く眠たいが、朝食の準備をしなければ。眠たい目を擦りながら目覚ましを止め、私はのそりと起き上がった。今日のメニューは何にしようかな、と顔を洗いながら考える。

よし、決まった。そうと決まれば私は台所に向かって支度を始める。今日のメニューはスコーンにクロテッドクリームとブルーベリージャム、それからサラダにスクランブルエッグとベーコン、あとはコンソメスープだ。下ごしらえを始め前に時計を見た、今日もきっかり五時半に支度開始。



朝食が完成したので、まだ寝室で寝ているであろう私の旦那さんを起こしに行く事にする。彼はとてもしっかりしていて規則正しいように見えるが、実は朝起きるのが少し苦手だったりと可愛い所も沢山あるのだ。こんな事、知っているのは私だけだと思うと、つい口元が緩んでしまった。

木造の温かみのある階段をトン、トン、と登り、出た廊下の突き当たりにある部屋へノックせずに入る。やっぱり寝てた。サラサラとした綺麗な黒髪をシーツに散らばらせ、長い睫毛で縁取られた瞼は今は静かに閉じている。
壊しがたい。と思った。これも毎朝の事なのだが、何故だか起こす事を躊躇ってしまう程にいつもこの光景はうつくしい。私はどこかへ飛んでいた意識を引き戻し、彼の、レギュラスの眠るベッドサイドへと立って出来るだけ優しく声を掛けた。



「レギュ、レギュ、起きて。朝だよ」

「………う、ん……」

「朝食もできてるよ」

「ん………、あ、ナマエ。おはようございます」

「おはよう。さ、ご飯食べに行…」



何度か揺り起こしてやっと起きたレギュは、少しその目を細めておはようございますと挨拶をした。それだけに高鳴る私の心臓はどこかがおかしいのかもしれない。そう思いながらも、もう階下に降りて二人でご飯を食べよう。とくるりと背中を向けたその時だった。先程まで寝惚け眼でベッドサイドに腰掛けていたレギュが立ち上がり、私の腕を掴んで振り向かせ様に頬にキスをしたのだ。

ちゅ、と柔らかい感触が頬から離れていくのを感じていたが、もちろん私は口をぱくぱくさせて彼を見つめるしかない。当事者の彼はというと、悪びれもしないで、ウインクまでつけて私よりも先に部屋を出て下に行ってしまった。…………心臓に悪すぎる。



 − − −



朝食を、美味しいですね、流石僕のナマエです。というような歯の浮きそうな言葉を言いながら食べ終わるレギュ。彼は結婚する前も甘い言葉を言う方だが、それはたまにだった。だが結婚してからは毎日のように甘い台詞を私に言うようになったから、余計に質が悪い。

ごちそうさま。と言った後レギュは食器を流しに下げて、彼の仕事場である一階の書斎に向かって行った。彼の仕事はパソコンで情報処理やネットのセキュリティを自宅でするというものだ。だから機会音痴で専業主婦の私は、その間に家事を済ませる。食器を洗った後に洗濯物と布団を干して掃除機をかけてー…やる事はいっぱいあるためそんなにゆっくりはしていられない。私は気を引き締め直すためにも大きく息を吸い込んだ。



 − − −



辺りの日が暮れ始め、ガラス戸から見える空がオレンジ色に染まる時間帯。私が取り込んだ洗濯物を畳み終わると、もう六時半を回っていた。レギュも昼ご飯を食べた後も部屋でずっと仕事してるなあ、そろそろ終わる頃だと予想して私はリビングから廊下に出る。初秋に移り変わってきた気温は涼しく、私は少し身震いをした。

廊下を左手に曲がって少し歩いて右側にある書斎の扉。そこをコンコンとノックすると、開いてますよ。と声が聞こえた。それを合図に私はゆっくりと部屋に入り、オレンジ色の光に照らされながら、カタカタとそのしなやかな指で器用にパソコンを操作する彼をすぐに見つける。あ、眼鏡だ。そう、彼は普段こそ眼鏡はかけないが、仕事の時だけはシャープなデザインのグリーンの眼鏡をかける。

私がこのギャップに始めてときめいた日が懐かしい、…と言っても、今もあまり変わらないんだけど。一段落がついたのか、キーボードを叩く指が止まり、緩慢な動作で彼が振り向く。ああ、やっぱり格好良いな。ぼうっと惚けていれば、それに気付いた彼が声を掛ける。



「ナマエ、ナマエ?」

「あっ、ごめんレギュ」



私がハッとして答えれば、彼はクスクスと笑いながらパソコン椅子から立ち上がり、この広い書斎に置いてあるデザインの良いソファーに腰をかくた。私は彼に何もかも見透かされているようで、恥ずかしくなりながらも隣に座る。彼がふわりと私の頭を撫でながら話かけてきた。



「どうしたんですか、ボーっとして。僕に見惚れてたとか?」

「…う、ん」

「!…あんまりそんな事言うと、我慢出来なくなりますよ…?」



私が赤いであろう顔を俯けながらそう答えると、彼は一瞬驚いたような、不意を突かれたというような顔をする。そしてその一瞬後に、私の視界にはレギュと天井、背中にはソファーの柔らかな感触が伝わっていた。口調こそ優しいものの、切羽詰まった声色が聞こえて、私は緊張する。



「…そんなに身構えないでください。僕だって君の夫なんですから、君と触れ合いたいと思いますよ」

「え、あ…」

「だから、今から君をください」



オレンジ色に照らされながら妖艶に微笑むレギュは、私がその答えを言う前に、私の唇を塞いでしまった。愛してます、と言いながら。









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