窓の外で白い鳥が自由に飛び回りながら大きく鳴いている。まるで、今回迷宮から帰ってきて、そして不当な領主ジャミルから解放された奴隷の人達の心境を現しているみたいだ。
私も自国で弓の師匠から、お前はもっと広い世界を見て、様々な出会いを修業をしてこいと村を追い出されたのがつい最近のようにも思える。私とアラジン、アリババで迷宮を攻略して、帰りには大きな大きな宝物の袋と、そして次への冒険の夢を膨らませながら迷宮を出たのもつい最近。
私はこの二人と出会ってあの迷宮攻略という体験をして、もっとこの美しくて広い世界を一緒に旅できたら、と胸をときめかせて迷宮を出た。その時、横を向けば二人ともがいるはずだった。居て当たり前だと思っていたのに、アラジンだけが居なかった。
「ナマエ…ほら、もう少ししたらアラジンだって腹を減らして帰ってくるって!」
「……そうかな」
「そうだよ!だから元気出せよ、な?」
そう、ここはあの後迷宮攻略の財宝で入る事ができた私達三人のための部屋。アラジンの好きな綺麗なおねいさんが一杯いて、それで美味しいご馳走だって一杯用意してあるのに何で帰ってこないの、アラジン。一緒に柔らかなソファーに座って、私と一緒に落ち着かない表情で彼を待つアリババはとても優しい。自分だって不安でいっぱいのはずなのに無理してる、だけど今はその優しさに甘えるしかない私がとても歯痒かった。
励ますような言葉をアリババが私に言い続けてくれながら、来客の度に二人で階段を掛け降りたりしたのを繰り返して数時間。窓の外を見ながら彼がソファーから立ち上がった。
まだ元気一杯、というわけではなさそうなアリババは、無理やりにでもその不安を振り払うかのように首を振ると、座って俯く私に手を差出しながらこう言った。
「ホラ、ナマエ立てよ。そんなシケたツラしてたらアラジンが心配するぞ?」
「だって…!」
「だから、アラジンが戻ってきた時にまた楽しく出発出来るように、ナマエも気分転換しようぜ」
私が言葉に詰まっていると、アリババはそのまま私の手を取ってソファーから立たせ、ちょっと行ってくると控えの女の人に告げた。そして私の手を引きながら、出入り口に歩きだした。
− − −
前より活気で溢れかえった街の人々みんなが、きらきらと輝く目、希望を灯しながら自分の仕事をこなしていた。奴隷から解放された人たちは、私たちを見て感謝の言葉を何度も言ってくれる。なんてあったかいんだろうか。靴で踏み締めるこの砂が、少し柔らかくなったような気がするのは気のせいか。
陽光に当たって反射する眩しいサラサラの金髪が私の手を引いて歩いていく。ほら、気分転換にはちょうどいいんだよあそこ、何か女の人に人気の甘い物があるみたいでさ。と私を気遣ってくれる彼がそれ以上に眩しい。
「よし、着いたぞ」
「…スイカゼリー?」
店の前に置かれていた看板にはポップな文字で、スイカゼリーという単語が書かれていた。私の手を引くアリババは、その看板を通り過ぎて私と店内に入る。
可愛らしい小物などが置かれた店内では元気な店員さんの声と、それからニコニコしたお客さんの笑顔が目に入った。
「ナマエは何にする?まあこれを食べに来たワケだし、スイカゼリーでいいよな?」
「何でもいいよ」
「分かった。すいませーん!スイカゼリー二つください!」
大きな声で彼が注文をして少しすると、また可愛らしい衣装を着た店員さんが例の物を運んできた。私がそちらにちらりと顔を上げると、透き通った硝子細工の容器に空の色の透明なゼリーと丸く繰りぬかれたスイカの果肉がいっぱい入っていた。
うおー!美味そうだな!なんて、笑顔を見せながら呟くアリババを横目にしながら、私は別の事に意識がいっていた。このゼリーの色、アラジンの色だ。それだけで涙が出てきそうになった私は、スプーンを急いで手に取り、それを口に運ぶ。
「…美味しい」
「だろ?そういやこの前アラジンが初めて食べたスイカが美味しかったって言ってたよな!」
そういえば、最初の街であまりにお腹が減って隊商のスイカを盗み食いしてしまったけど、とても美味しかったってアラジン、言ってた。アリババの優しさと、この狙いすましたかのようなポイントに、ついに瞳の堤防が決壊してしまった。
ばか、ばか、自分だって辛いはずなのにアリババって本当にばか。ありがとう、やっぱり二人は大切な人だよ。励ましてくれてありがとう。私がそれだけ言うと、アリババは少しだけ何時もの笑い方に戻って、「ばーか」と言った。
涙が渇いた頃にアリババの顔を見れば、何故か彼がとても格好よく見えた。スイカの果肉があと一口、グラスに残っている。