「ナマエ!!またですかーーーーッ!!!」

「すいませーーーん!!!!」



忙しなく文官達が動き回る白羊塔の廊下に、今日一番の怒号が響き渡った。その発声源はこの国の王、シンドバッドの部下でもあり補佐役の政務官、ジャーファルだ。彼の髪は珍しい白髪で、何時もの穏やかな笑みと仕事が追い詰められた時、そしてシンドバッド王や部下を叱る時のの鬼の様な形相とのギャップが激しい事が文官の中でも有名だ。

そして、その基本的に何かしでかさなければ穏やかなジャーファルの目の前でやらかしてしまったのは新米の文官、ナマエであった。新米と言ってももう努めてから二ヶ月と半月、一般的に仕事をそつなくこなせるようになっている頃だ。
だが、このナマエという少女は所謂ドジっ子という奴で、仕事を覚えたにもかかわらず毎日そのジャーファルの怒号を三回は発動させるというレベルだった。



「ジャ、ジャーファルさん…すいま…せ…」

「あなたはいい加減学習したらどうですか!全く…まさか大事な書類を運びながら転倒するとは思いませんでした…」

「反省してます…」



つい先程ナマエが大変お叱りを受けた事とは、大事な書類を運びながら廊下の何もない所で大転倒した事であった。このドジさをしっかりさせようと普段から自分でも気を付けようとしているのだが、こればかりはいくら気を付けても直り様が無い模様。
ジャーファルさんにも、せっかく仕事が粗方片付き、大きく伸びをしたところで扉の外から大きな物音と悲鳴が聞こえた時の絶望感(※本人談)を味わわせてしまったしまったし、今日も大失敗だ。

廊下に正座させられ、ひたすら小言を言われ続けるナマエにいつもの事か…と、哀れみと少しの応援を含む視線を向けながら通り過ぎる顔見知りの文官たちに、縋るような顔を向けても華麗にスルーされる。皆の薄情者ぉ!!!と心の中で彼女は叫ぶが、誰もとばっちりを食らいたくないのだ。



「だからいつも私が仕事を終えた瞬間に仕事を増やすのをやめなさいとあれほど…」

「……………仕事が無かったら無かったでじんましんが出るくせに……」

「何か言いましたか?ナマエ…」

「あいだだだだだ!!ごめ、ゴメンナサイ!!!!」



あまりに長いお説教に甚だうんざりしてきたナマエは、ぼそっと聞こえない位の声量で嫌味を言ったのに、笑顔のジャーファルさんに気付かれてしまった。仕事中毒、いわゆるワーキングホリックというやつのこの上司は、仕事を増やしたら増やしたで怒る癖に仕事が無かったら無かったでじんましんが出てしまうという体質なのだ。こめかみをグリグリと押され、涙目になるナマエを一通り見ると、彼はその手を離した。



「…そろそろ反省しましたか?なら、早く仕上げますからね!」

「…!っはい!!」



一つため息をついた後、てきぱきと廊下に散らばった書類を集めて半分渡してきたジャーファルに、ナマエは元気よく返事をした。普段から今度したら次はありませんからね!とお決まりの台詞を言う彼は、部下の自分を可愛がってくれてるんだなあ、と思う。


怒られてばっかりで辞めたいと思う時もあるけど、これだからやめられないのだ。半分と言うには些か多めの書類を持った上司に、駆け足で少女は追い付いた。









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