―ああ、楽しみだな、早くシンドバッドの驚いた顔が見てみたいもんだ。 そんな事を考えながら、涼やかなような暖かいような夜の風に鼻歌を飛ばす男は、きらびやかで豪奢(ごうしゃ)な建物の前まで到着した。その豪奢な建物というのは、いわゆるシンドリア王宮である。

周りに着いてきている部下の海兵達は、お互いの今日の苦労をねぎらい合いながらも笑顔を見せていた。気分がいい。入り口からぞろぞろと足を踏み入れながら、我が王が執務をしているであろう部屋を足取りも軽やかに目指した。あ、軽やかには言い過ぎた。自分の体躯の大きさでは全く軽やかではなかった、と彼は思い直した。



「ジャーファルに叱られてないといいなあ、シンドバッド」



 ー ー ー



「シンドバッド王よ、入るぞー」

「…その声はヒナホホか、入っていいぞ!」



大きな木造の扉を景気よく開け放ち、にかりと中央の椅子に座る我が王に挨拶程度に今日の報告をする。特に問題なし、今日も我がシンドバッド王のシンドリア王国は平和そのものでした。 それを聞いたシンドバッドは、うむ、と満足そうに一つ頷く。これはいつも通りの事だ。

さて、報告も終わった事だし、一番の楽しみをご報告預かるとするか。ジャーファルにも怒られてなかったしな。口元をにやにやと緩ませながら、ヒナホホはその件を話しだした。



「―おぉ!あのスパルトスがか!?」

「あっはっはっはっ!そんな反応を待ってたんだよ!」

「いや、取り乱してしまったな。…前に続き、期待できる展開だな」

「そうだろ?このまま女との交流を増やさせたいんだけどなぁ!はっはっはっ!」



男やもめであるヒナホホは、沢山の子供がいるが、みんな可愛くて仕方がないのだ。そんな自分からしてみたら、八人将全員さっさと妻をめとるなり夫に嫁ぐなりなんなりして、ガキをたくさん作って欲しいというのが密かな願いだ。

そんなヒナホホをよそに、自分と同じ八人将の中でもスパルトスは故郷であるササンの教えとやらで女がとんでもなく作りにくい。それに加え、どちらかと言えば女が得意でない傾向があるため、それに拍車がかかっているのがヒナホホは目に見えて知っていた。

だからこそ、だ。そんなスパルトスと女が接する機会が来ているのだ、そんなチャンスを見逃さない手は無いだろう。―…それに比べ、俺のガキ達はといったら無駄に知識はあるしやんちゃだしで、一体誰に似たのか。 それは自分だと微塵も考えないまま、ヒナホホはシンドバッドの言葉に耳を傾けた。



「うむ、ではスパルトスとその民が上手いことくっつくように仕向けよう、―と言いたい所だが、それはよした方がいいな」

「?、何でだ?」

「人は誰かに無理矢理くっつけさせられるモノではないだろう?第一、くっついた所で直ぐに別れるのが関の山だ」

「ましてや、宗教上の教えが障害になるだろうしなあ…」



ううむ、と執務机の上で腕を組むシンドバッドは、取り敢えず進展があったらその時に考えればいいさ、と最終的に笑った。まあ確かに、俺だったら絶対イヤだね、そんな事されたら。

じゃ、もう終業してる事だし、月見酒でもするか?今日は気持ちいい天気だ。とシンドバッドを誘ってみると、机から乗り出すようにして行くと返事をした。どうせ禁酒中なのだろうが、現金な王だ、我が王は。ふっ、と笑いが零れるのは、やはりそんな王だとしても尊敬に値できるからなのだろう。



「俺は部屋でガキ達に説明してくる時に、酒を持ってきてやる」

「おぉ、有り難い…!!じゃあ俺はつまみを用意しよう」

「その必要はありません。シン、ヒナホホさん」

「エッ?ジャ、ジャーファル…くん…?」

「禁酒中だというのに、何をするとおっしゃってるんですか?えぇ?」



各々用意するものを確認し、さて取りに行こうという所で事は起きた。この時点で聞こえる筈のない声が、広い執務室にスッと響き渡る。シンドバッドが凍る様に固まった。それに気付き、ヒナホホが恐る恐る振り向くと、そこに居たのは微笑みながらも黒いオーラを纏ったジャーファルだった。

あ、やっちまった。ヒナホホはそうと見ると直ぐ様、シンドバッド!じゃあまたな!と部屋から逃げていった。 執務室に残ったのは王であるシンドバッドと、何故か暗器を手に構えたジャーファル。



「………ちゃんと、禁酒しろおオォーーーっ!」

「ウワーー?!」



怒号と共に、艶やかな紫の髪の王は、本日最大の恐怖を味わうはめとなったのだった。







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