ザザーン、ザザーンと静かに打ち寄せる波の音を聞きながら、私は只今壁際に盗人オラミーを追い詰めていた。まさか勘定中にやられるとは…。南の夢の国シンドリアで青果店を営む者には逃れられない宿命であるが、彼らに度々店先から物をくすねられるのはこれで何度目か。思い出しても自分が店番の時に商品をくすねられるシチュエーションは最悪のものばかりだった。

初めてナマエが出し抜かれたのは、忘れもしない、まだ手伝い歴が浅い…つまりは幼い頃であった。いつも通り小さいながらも精一杯声を張り上げ、大人のお客さんにうちの美味しい果物や野菜を買ってもらおう!と張り切っていた時に突然彼らは訪れた。

商品の陳列棚からひょっこりと顔を出した、目がくりくりのオラミーは凄く凄く愛らしくて、思わず客引き中なのもかまわずに抱き締めた。うわあ、ふわふわもふもふだあ!地元民である私はオラミーをよく知っていたし、人懐こくて可愛い事も知っていた。だからこそ、この悲劇は起きたのだ。



「かわいいねえ、オラミーさん。あなたはどこからきたの?」

「キュキー!」

「…もりのほうかなあ?まいごになっちゃったならすこしここにいたらいいよ!」

「キュイ!」



小さい子らしい舌っ足らずな口調で私は一人解釈すると、ふんわりした尻尾に子オラミーを入れている大人のオラミーを優しく勘定台に座らせ、何か餌はなかったかとくるりと背を向けたのだ。オラミーは、賢かった。

私が背を向けた瞬間にはタタッという音がしたと共に、さっきまで籠に三つ入っていた筈のパパゴレッヤは二つになっていた。勿論犯人は忽然と姿を消したオラミーに決まっていて、初めて私は可愛い動物に大泣きさせられて、そして彼らを恨んだ。懐かしいなあ、しかもその時から同じヤツが来るんだからもうね…。キキュキュッ!とこちらを笑うかの様に一鳴きしたこいつは、壁に追い詰められているというのに余裕綽々だ。イラア…とする。

まあ、このオラミーとは長年追い掛け回してきた仲なので、捕まえるコツはなんとなく分かる。さ、売り上げにも響くしやらないと!
私は取り敢えず馬鹿正直に真っ正直からまずは捕まえようとする、そうすればこいつは腕に飛び乗る。やっぱりだ。そしてそこを捕まえれば―――



「やった!…あっ?!」



漸く捕まえたと安堵の歓声を上げた時、私の手から彼がするりと抜け出した。しまった!実は、コツは分かっていても、それまでに追い詰めるまでの鬼ごっこが一番大変な作業なのである。どうしよう、忙しいお母さんに店番一旦任せてきたのに。一先ず追い掛けるのが先決なので、私は素早く方向転換をして、視界にオラミーを捉えた。

逃げ出そうとするオラミーは一目散に走りだしたが、それは一瞬で終わった。そう、もう既にあの子は捕まえられていたのだ。



「…捕まえるのはこのオラミーで良かったか?」



大きく、しかし綺麗な手の中でもがくオラミー。そこに立っていたのは、頭に巻いたマントのような布を茜色に照らされ、暁色の髪をしたシンドリアの守護天使の一人、スパルトス様だった。






5





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -