空から海の涼やかな風が吹いてくる。蒼穹、と言ってもいいだろう、まるでストローで息を吹き掛けたような雲の流れに、朝の爽やかさを酸素と共に肺に大きく吸い込んだ。スパルトスは今日も愛する国の海上警備の仕事をするために、シンドリアの港へと来ていた。この国周辺の海は何処までも透き通り、青々とした神秘的なきらめきを放っている。

港で積み荷の確認や、警備の為の武器等を積み込む船員に指示を飛ばすヒナホホを横目に見ながら、船への渡し橋を渡って船に乗り込む。自分も今日の航路の確認をしなければ。次第に騒がしさを増していく甲板に、彼はゆるりと頬を持ち上げた。



 − − −



「お母さーん!今日はパイナップルの収穫からだよね!?」

「そうだよ!ただ陽が登り切るまでには店においで!」

「はーい!」


シンドリアの住宅区のある一角、まるで積み木の様に家が上に上にと積みあがったその二段目の家では、朝早くから元気な少女の声が聞こえていた。彼女、ナマエは両親の青果店の手伝いを毎日早朝からしているだけあり、寝起きが非常に良かった。果物の収穫、箱詰め、そして販売の準備を朝のバザールが始まるまでに終わらせなければならないからと早く寝る癖をつけ、小さい頃からそれを実行してきた賜物だろう。


それはさておき、今日はずっと手間隙掛けて育ててきたパイナップルの収穫日である。他の国でも希少である南国の果実は、パルテビアやレーム、他国の商人がとても良い値で買ってくれるので生活には困らないのだ。

パイナップルは一つ一つが大きいからなあ、手早くしないと。と独り言の様に呟いた彼女は、島の果樹園へと土を踏みしめた。



 ー ー ー



本日の海洋警備もそろそろ終業の時間が近付いてきた。陽も先程までは真上にきていたというのに、今では西の方角に傾いてきている。ふぅ、と息を小さく吐いたスパルトスは、共に海上警備をしていたヒナホホに声を掛け、船をシンドリアへと動かした。


(…それにしても、一昨日のシャルルカンとピスティはしつこかったな…)



そう、二日前の飲み屋で、スパルトスは"例の少女"について質問攻めに遭っていたのだ。ただ自分が女性と話しただけで騒ぎ立てて何が楽しいのだろうか。仲間の世話焼きには感謝するが、正直あそこまでがっつり食い付かれるとどうも一歩引いてしまう。
船員と談笑しながら船に乗って暫くすると、直ぐに港に到着した。もう夕食時だからだろうか、この近くにも軒を並べているバザールの店先から良い匂いが漂ってくる。スパルトスは腹が減ったな、と思いながらも、先ずは報告の為に王宮へ歩き出した、その瞬間だった。



「前の人ー!その子捕まえて下さーーーい!!!」



よく通る声でそう叫びながら走ってくる少女と、その少女の前にはパパゴレッヤを持って逃げているオラミーがいた。よくある事だが、このオラミーが彼女の店先から物をくすねたのだろう。人懐こいがそういう所は困り物だ。

冷静に分析したスパルトスは、近付いてくるオラミーを捕まえようと手を伸ばした。だが、捕まえられなかった。すばしっこいオラミーは、スパルトスの手をスルスルと伝って行き、なんと肩を踏み台にして果樹園の方へと逃げてしまったのだ。そして先程の少女は一緒になって森へと走って行く。


(…あれ?さっきの少女はこの前の青果店の…?)


少し赤み掛かってきた陽に照らされたポニーテールがしっかりと目で捕らえられた。果物を沢山貰ってしまった恩義もある。はっはっはと笑いながらその一連を見ていたヒナホホに報告を任せ、スパルトスは捕まえるのを手伝う為に小走りで果樹園へと向かった。
彼が去った後、ヒナホホはニヤリと笑いながら果樹園の方を見つめこう言った。



「あーの堅物にもあんな元気なお嬢ちゃんが好いてくれたらいいんだけどなぁ!わっはっはっはっ!」



豪快に笑うと報告へ行ったヒナホホは、そちらの方も報告したらシンドバッドがどういう反応をするだろうかと思うと楽しみでついにやついてしまった。身体のサイズと一緒で大きなヒナホホの腹の虫が低く呻いた。







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