今日も今日とて、南国の温暖な気候と、王宮を取り囲むように並び建つ民家や商店、そしてバザールから人々の活気のある声が響き渡る心地のよい朝。雲一つない気持ち良く晴れ渡ったこの空の下、未開と呼ばれる地域にあるこの国はシンドバッド王とその配下の精鋭「八人将」をはじめとする多彩な人々が集う国、シンドリア王国。

かつては人を寄せ付けぬ絶海の孤島だったが、それをシンドバッド王が開拓し、それが「迷宮攻略伝説」の末に作り上げられた「夢の都」として知れ渡り、他の国から訪れる人は絶えない。周りをぐるりと見渡せば、北大陸では見られないだろう南国の植物や、珍しい動物たちが見られる。ここは誰もが素晴らしいと認めるだろう、そんな国だ。


そして朝と夕方に開かれる、地元民や旅人たちが様々な商売をするために集まり、賑わいをみせている中央市の中。バザールと呼ばれる場所のある店先で元気よく声を出しながら、シンドリアで栽培している果物を売っている少女がいた。彼女の名前はナマエ、生粋のシンドリア国民であり、この青果店を営むこれまた元気な夫婦の一人娘である。



「いらっしゃいませー!これは今日の朝採れたばっかりのパパゴレッヤ!果肉も甘くてジューシーで、今買わなきゃ絶対に後悔しますよー!!」

「お嬢ちゃん、それ三つちょうだい!」

「はい、まいどありー!おまけにもう一つ入れときますね!」

「おお、気前がいいな!美人だぞお嬢ちゃん!」

「持ち上げられてもこれ以上はサービスできませんよー?」

「こりゃやられた!わはははは!」




日の光に健康的な小麦色の腕を衣から曝け出し、さらりと高い位置で一つに括られた髪を揺らすその少女は、まさに看板娘の鏡といえるだろう。幼い頃から店先で、商売をする父や母を見ているナマエには客の扱いなどお手のものだ。

人好きする笑顔で快活に頬笑んだ彼女は、また大きな声で客引きを始めた。




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王宮から城下町、道行く国民に憧れときらめきを含む眼差しで見つめられ、黄色い声で名前を呼ばれる八人将の一人、スパルトスは浮かない面持ちで歩いていた。今日は海上警備は他の八人将であるドラコーンとヒナホホがしているため、いつもはその仕事に当たっている彼は実質の休みなのであった。

だが、彼がこんな浮かない顔をしている理由は別の所にあった。今日は鍛練をするつもりであったのに、休みならばと王であるシンドバッドから「どうせなら朝のバザールに行ってこい!お前は自分からあまり人と…特に女と接したがらないからな。いい機会じゃないか!」と言われてしまい、ついでに王のお使いと言ったらまだ聞こえがいいが、おやつの調達を命ぜられてしまったのだ。



「王よ…私には祖国の教えというものがあるのに何故いつもそう無茶ぶりを…」



バザールへの道中で、今は王宮で八人将の一人であるジャーファルにどやされているであろうシンドバッドを想像し、彼は小さく溜め息を吐いた。まあ任されてしまったものは仕方がない、早く王にパパゴレッヤを買って王宮に帰ろう。と決め、スパルトスは歩行速度を速めた。



「いらっしゃいませー!」

「そこの異国民の奥さん、シンドリア名物アバレヤリイカの薫製見てきなよ!」

「あーそのエウメラ鯛、北大陸の方からかい?よし、一ついただくよ!」

「あ、スパルトス様こんにちは!」



バザールの中を歩けば、活気づいた声がそこかしこから聞こえてくる。やはりシンドリアはいい国だ、と一人納得したスパルトスは律儀にも、王のために新鮮でみずみずしそうなパパゴレッヤを探しにまた歩を進め、ある場所でぴたりと足を止めた。

店先であの可愛らしい水玉模様が、今にも弾けそうな鮮やかな色を見せ付けていた。とても新鮮そうなパパゴレッヤだと見える。スパルトスが店員を探すようにキョロキョロと視線を巡らせれば、直ぐにそうと見える人影が見付かった。


結構な数の客に対して物怖じせずに、ハキハキと自分の店の果物を売る様子は、誰から見ても感心されるものだろう。さて、これは声を掛けにくいがどうしたものか、とスパルトスが腕を組もうとしたちょうどその時、その店員がこちらを振り返って近付いてきた。




「いらっしゃいませ!お兄さんは何をお探しですか?今ならパパゴレッヤがオススメですよー!」




白い歯をにっ、と見せながら振り向いた店員が、スパルトスに対し大きな声でそう言った時、自分と相手の間に小さな白い鳥が舞った気がした。






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