イギリスにしては珍しいよく晴れた昼下がり、僕はクィディッチのチームメイトと一緒に庭に出て来ていた。ここはホグワーツ魔法魔術学校。世界各国ありとあらゆる場所、もちろんイギリスからも十一歳になるまでに魔法力を示した魔法使いの子供が集まる学校だ。そんな中でも純潔主義、そして闇の陣営側であると有名なブラック家で、僕は次男という立場だ。まあそれについてはまた後程。

僕はスリザリンらしい、と言ったらいいだろうか、そんな笑い方をしながら楽しげに談笑するチームメイトを余所にそよそよと最近吹き始めた春風に揺られる芝生を踏み締めて歩いている。すると、友人が立ち止まりながらある一点をじっと見てなにやら騒がしくしていた為そちらを見てみる。




「あ!あれレイブンクローのミヨウジじゃないか?!」

「うお!噂通り美人じゃん!!!」

「すげー!」




目線を上げたその先には、金糸を風になびかせる少女がいた。彼女は大イカがいる湖のほとりで木に寄り掛かりながら、楽しそうに歌を歌っていた。何より驚いた事は、その湖から大イカが頭を出しながらそのミヨウジと呼ばれた少女に寄り添って戯れていたからだ。

何なんだあれは。よく見ると彼女が寄りかかる木にも鳥などが集まり、彼女の傍には猫やリスなどの動物が集まっている。まるで童話の様な事をしている、…あまり深く考えないでおこう。


そして友人が言っていた通り正直美人だとは思うがそこまで珍しい程では無い、それだったら他にも美しい女性は沢山見てきた。勿論興味は無いが。僕はそのまま目を逸らそうとすると、その直前に彼女と目が合った。ばちりと視線が交わったかと思うと、向こうはきょとんとし、その後に微笑みながらこちらに手を振った。



「レギュラス!ミヨウジが俺の方向いて手振ってる!」

「バカ、俺だろ!」

「ちげーよ!というかアイツって純潔なのか?」

「分かんねえ!」

「使えねえな!」




僕に話を振っておいて、喋り続ける彼らは置いて行く事にした。去り際に少しだけ彼女の方を見てみれば、また湖の方を向いて先程と同じように歌っていた。まあ僕にとってはどうでも良い事だ。スタスタと次の授業に遅れないようにと僕はホグワーツ城に向けて歩き出した。




 − − −




「中世の魔女狩りがー…」



ビンズ先生の一本調子の授業を聞きながら、ノートを取る。周りのスリザリン生、いや、周りの生徒はみんな最初の十分で眠ってしまった。確かに分からなくも無い、これは非常に眠気を誘う授業なのは周知の事実だ。僕は眠気を紛らわす様に首を軽く振って、ノートにまた羽ペンで字を書き込んだ。


僕達の学年は三年、授業科目や宿題の量などが二年の時より増えて大変でしょうがない。だからと言ってブラック家の人間たるもの常に良い成績を取らなければいけない、と母様から教えられているし、僕はちゃんとその言い付けを守りたい。兄の様にはなりたくないから。


もう二月下旬なのでそろそろ半年もたつだろうか、まずまず慣れているので学年が上がりたての頃よりかは幾分もマシだ。現に今成績も常に上位だ。そう思いつつも、寝ている生徒に目もくれず前で説明を続けているビンズ先生の姿が擦れてくる。ダメだ、眠い…。僕はそのまま、重い瞼を重力に逆らわずそっと下ろした。





「…………て、…きて。」





誰だろうか、せっかく気持ちが良いのに僕を起こそうとするのは。…………ん?ちょっと待て、起こそうとするという事は僕は寝ていると言う事で。不味い、早く起きなくては。

考えると早々に起き上がれば、昼間見たあのレイブンクローの女生徒の顔。何でいるんだ。そんな考えがぐるぐると頭の中を巡るが、それよりも授業からどれくらい寝ていたんだろうか。今は何時で次の授業は始まっているんだろうかという方が気になった。魔法史の次は魔法生物飼育学の筈、脳をフル稼働させながら目の前にいる彼女に聞いてみる事にした。



「…すいません、僕はどれくらい此処に?」

「大丈夫、次の授業は始まってないわ。私が早く着いてしまって、スリザリンの授業の直後に入って来たら寝ていただけだから。ほら、まだ十五分もある。」




ちらりと時計を見てふふ、と笑う彼女はレイブンクロー特有のキリリとした様な、ピリッとした様な雰囲気は無く、どちらかと言うとグリフィンドールなどの様に見えた。ともかくまだ余裕はある様だ、間に合わないかと思っていたのでホッと胸を撫で下ろす。

確か彼女は僕を起こそうとしてくれていた、お礼を言わなければならない。魔法史は楽しいわね、魔法界が歩んできた道を知ることはとても有意義だと思うもの、とか何とかレイブンクローらしい事を言っている彼女に向いて礼を言う。




「…どうも、起こして下さってありがとうございました。」

「いいえ、お礼には及ばないわ。…その代わり名前を教えて貰ってもいいかしら?」

「…ネクタイを見たら分かると思いますが、スリザリン三年のレギュラス・ブラックです。」

「私はレイブンクローでレギュラス君…あ、そう呼んでもいいかしら。」

「…どうぞ。」

「ありがとう。レギュラス君と同い年のナマエ・ミヨウジよ。よろしく。」

「………はい。」




そして時計を見てみるとあと十分、そろそろ行かなくては。僕は挨拶もそこそこに杖を一振りして荷物を纏めると、椅子から立ち上がって教室の入り口へと歩を進めた。後ろでミヨウジさんがまたね、と言ったかと思うと手を振っている。僕はそれに軽く会釈を返すと、次の授業へと急いで行った。







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