あれから一週間程過ぎた午後一時、私は母に頼まれた品を買うために自転車をこいでいた。風を切る感覚が気持ち好い、けどこんな遠くまで自転車で行かせる母は強いと思う。

道を歩いているおばあちゃんに挨拶をし、ふと視線を右へと向けてみると、金網一枚を隔て、試合をする女子プロサッカーチーム、ローサがいた。…ん?よく目を凝らして見ると、いつぞや七日程前に見た少年達の姿が見えたような気がして、自転車を停めてみる。



「…あれは…竜持くん達と……え?何でプロチームといるの?」



やっぱりあれはあの三つ子だ。小学生だと言っていたのに何で女子プロチームと試合をしているんだ?三つ子のスポーツってテニスじゃなかったっけ?疑問符が次々と浮かび上がる中、じっと戦況を見ているとやはりローサの方が押しているように見える。

私の家は父がサッカー好きで詳しいため、プロサッカーチームは結構覚えている。もちろん、地元チームのローサもだ。だから私も必然的に詳しくなるのだけれど、目の前の光景に目を疑ったのは仕方がないと思う。



「三つ子のチームの方が押され気味、か…まあ仕方ないよね…」



試合模様はローサに押され気味の小学生チーム。さすがローサは世界レベル、と言ったらいいだろうか、すいすいと子供達をかわしてミサキ選手がゴールを決めた。

三つ子の他には男の子が四人、そして女の子が一人。前はテニスをしていた竜持くん達、サッカーはそんなに上手いんだろうか。そう思いよく三人を見ていると、ふと気付いた事があった。あれ、三つ子の表情が、楽しそうだ。



「…これは、あの時あんな顔するはずだよね」



虎太くんが三人に増えた気がしたが、気にしないでおこう。幸いにも頼まれた品は食べ物ではないため大丈夫。私は少しだけ目元を崩すと、近くのコンビニへとペダルを漕いだ。



 − − − 



子供達の人数分のスポーツ飲料の入った袋を持ち、ローサとの試合を終えて出てきた子供達の前に立ちはだかった。凰壮くんが唖然とした顔をしている、面白い。



「苗字さん?!何故此処に?」

「たまたまこっちに用事があってね」

「え?なになに、竜持くんたちこのお姉さんと知り合いなの?」

「ちょっとな、で、何の用だよ」

「失礼だね凰壮くん!ふふ、良いもの見せてもらったお礼に。これ、皆に!お疲れ様」

「わー!ありがとうございます!人数分ありますけどえらい貰ってしまってええんですか?!」

「全然いいよー、どうぞ!」



エリカちゃん、というらしい。あの子の可愛さに和んでいた筈なのに、いつの間にか私はスポーツ飲料を飲む子供達の後ろで、竜持くんと話す事になっていた。彼はどこか落ち着かない様子でいたが、私には言いたい事があった。



「竜持くん、お疲れ様、凄かったね」

「いえ、そんな事はありませんよ」

「あのローサ相手に試合して勝てたなんて、本当に凄い」

「…ありがとうございます」



やはり竜持くんは何処か落ち着きが無い様子だ、それもそのはず。あのローサに勝てたのだから。私の思い違いではなかった事にホッと息を吐き、本題を切り出した。



「竜持くん達、本当はテニスよりずっとずっとサッカーが好きなんでしょ」

「…え?そんな事は」

「嘘!さっきの試合中の竜持くん達の目が、ずっと生き生きしてた、テニスの時よりも」

「…」

「テニスの試合はいいから、好きな事を好きなようにやるべきだと思うよ」



私はひとつ微笑むと、ぽかんとした竜持くんに背を向けて、子供達に声を掛けて自転車に乗り去って行った。


その後ろで、ぱっつん髪の彼が少し目尻を下げていたのを見ていたのは、彼の持った水滴の付いたスポーツ飲料だけだった。







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