ヒラヒラと舞い落ちる淡い桜色の花びら。地面に散らばっていたそれを履いていたシューズできゅっと踏み締めると、そこから不意に香りが漂った気がした。頭上を見上げれば枝という枝に満開になっていてふとに口元が緩む。


「よいしょ、っと」



背中には使い慣れた相棒の入ったラケットバッグに、先程のシューズとはテニスシューズの事。因みに格好はスポーツブランドのジャージだ。気分良く近所のテニスコートの金網扉を開け、緑色のコートに足を踏み入れた。嗚呼、モチベーションが上がってきた。

まずはアップから。屈伸運動からアキレス腱運動、走り込みを済ませ、ようやくラケットを取り出した。しっかりと手に馴染む感触。うん、やはり相棒は最高だ。



「…さあ、来い」



反対側のコートには誰もいないが、まるで試合の時のようにそっと呟く。そして黄色いテニスボールを、頭上の照りつける天体に向かってまっすぐ放り投げる。

青空に吸い込まれそう、と思った時には丁度良い高さにきていたそれをパコン、と気持ちの良い音で相手のエリアへと打ち込む。ナイスサーブ。私はコートに入ってから一番最初のこの瞬間が好きだ。風を切る様な感覚、太陽へ、太陽へとボールを届かせる。そう、まるで天への祈りのような、神聖な感覚すら覚える。

まあそんな事を思ってはいるけど、やはり原点はテニスが好きだという気持ちだ。そして私は考え込むのを一旦中断して、また相棒で風を切った。



 − − −



スライス、スマッシュ、バックなど、一人なので打ち込む練習をひたすら続けている。この練習ももちろん楽しいし、いい練習だが、相手がいないとこのエネルギーを発散し切れないと思う。



「っあー…、誰か来ないよね…」



そんな独り言を言いながら練習を続行。その時、入り口の方でキィ、と言う音がした。やった!心中は相手になってくれるかもしれない人が来た事にはしゃいでいたが、じろじろ見るのもあまり印象が良くないので前を向いたまま打ち込みを続ける。足音からして二〜三人みたいだ。声はー…男の子だけ。女子だけじゃ声を掛けづらいので、残念ながらパス。よし、スマッシュ決まった。



「…はっ」


今度はサーブ練習。普通のサーブ、スライスサーブ、と少しずつ試すようにパコン、パコンと小気味の良い音を立てる。うん、楽しい!と思いながらリストバンドで額に流れる汗を拭いた時、不意に後ろから声が掛かった。





「すいません。良かったら、試合をして頂けませんか?」








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