雲がぷかりぷかりと散らばって浮かんでいるのが、昼食の片付けを終えて一息吐いた名前の目に入る。今日は晴れ。イギリスにはあまりない心地好い天候に、ついつい窓辺にある椅子に腰掛けて微睡みの中に浸りたくなってしまう。

何時もは煙突飛行で名前の家の暖炉に飛んでくる彼も、こんな天気だったら外に出て日の光を一杯に浴びたくなるだろうな。と思考を巡らせていると、夏場なので火を焚いている筈のない暖炉からエメラルドグリーンの炎が燃え上がった。彼が来るという証拠だ。



「やあ。元気にしていたかい、名前」

「シリウス!暫く見ていなかったから心配してたのよ?」

「ああ、すまないね」

「長く開けるなら連絡ぐらいくれたっていいのに…」

「今度からはそうするよ」

「そうして頂戴」



比較的に蒸し暑いという訳では無いイギリスの夏だから、先程訪問してきた彼の服装はシャツに薄手の洒落たジャケット、そして黒いジーンズというラフなものであった。だが何を急いだのか、彼の額にはうっすら汗が滲んでいた。シリウスは何をしていたのか。久し振りに会えて嬉しかったという事もあるのであまり深くは考えず、名前はシリウスにご飯は食べてきたかと元気に問い掛けた。


対する彼はああ、名前の手料理を私が食べない訳がないだろう?と口元をニヒルに緩ませ、彼女の右手を掬い上げて手の甲にキスを落とした。まるで姫君に仕える騎士の様な一連の動作は、逢う度に行われているが未だに慣れないものだ。耳までも朱の色に染め上げた愛しい女性を見て、シリウスはくつくつと笑いを洩らした。名前も反応を面白がられていた事に気付いていたので、スルリと手を解くと彼の昼食の準備に取り掛かる。

昼食に作ったキドニーパイの残りをオーブンで焼き直し、また食感が良くなるようにした。それとカフェオレをシリウスの座るテーブルの上に置けば、彼は待ってましたと言わんばかりにフォークを手に持ち、口に運び始めた。



「うまい!やはり名前の料理は最高だな!」

「ありがとう。ところで、今日はいきなりどうしたの?」

「そのことか。名前、ちょっと玄関の外を見に行ってくれないか」

「別にいいけど…」



パイを頬張りながら口を開くシリウスを横目に玄関へと向かう。何があるのだろうか。玄関に行けと不可解な指示をした彼に疑問を抱きながらも、木で出来た温かみのあるドアを開ける。すると、目の前には真っ赤な、そう。グリフィンドールカラーの薔薇が、大輪の花を咲かせて数え切れない程花束となって置いてあったのだ。

えっ?と思わず声を上げた私に答える様に、スタスタと歩いて来たシリウスが私の後ろに立った。そこで、一応追われる身のシリウスがあまり見付かると良くないので、私はその花束を腕に抱え込みながら中へ入る。シリウスは優しい眼差しで、動揺する私を見つめながら説明を始めた。



「名前、驚いただろう?私からの贈り物だ」

「こんなに綺麗な薔薇…初めて見たわ…」

「気に入って貰えて何よりだ。因みに本数は百八本、言いたい事は分かるかな?」



悪戯が成功した子供の様に、キラキラとした光を含んだ目をしているシリウス。だけど、本数が何の意味を指しているのか分からない。私が首を傾げていると、それも分かっているかのように彼は私の耳元に口を近付ける。



「薔薇は本数によって意味が変わるんだ。百八本は…私と結婚して下さい、だよ」

「えっ…?それってどういうこと、シリウ」

「私と結婚してくれないか、名前。もちろん、ノーとは言わせないがね」



冗談か何かじゃないかとシリウスをまじまじと見ると、彼は気障な台詞をさらりと吐いて、最後に耳元に寄せていた口で私の耳朶を甘噛みして顔を離した。信じられない。シリウスがそんな事を言ってくれた嬉しさと、耳朶を甘噛みされたという気恥ずかしさがない混ぜになっている。返事なんて、ノーと私が言える訳が無いじゃない。

私は閉まった玄関扉の目の前で、返事の代わりに彼にキスをした。





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いずちゃん遅くなってごめんねー!!!おじシリウス完成したよー!精一杯わたしの貧相な文章力で甘いシリウス夢にしようとしたけど惨敗…あるある。

相互ありがとう!これからもよろしくねー!!手直しは喜んで受け付けるよ////

       もちづきこ





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