理想の彼女 | ナノ

※来神捏造です



「ほんとムカつく。
俺の初恋の“しずちゃん”はねぇ、色白でふわふわの栗毛でちょっとおてんばだけど強くて優しくて超美少女で、きっと今頃はAKBの研修生でもしてるに違いない、未来のアイドルNO.1なんだよね!
彼女は天使で聖女なのに、目の前のシズちゃんときたら化け物で融通きかなくて人の予想の遥か頭上を明後日の方向に飛んで行くし手に負えないし。彼女と君が同じ呼び方ってだけでも虫唾が走るよ!
あえて共通点を探すなら、君も彼女も色白なところだけだよね。まぁ、その唯一の共通点さえもムカつくから、ほんとシズちゃん早く死んでくれないかな」

「だまれ気色わりぃ呼び方すんなノミ蟲死ね。
俺の初恋だって、綺麗なストレートの黒髪をボブにしてはにかむ笑顔が可憐な大和撫子だ。
赤みがかった茶色の瞳に涼しげな目元が他の奴らの群を抜いてて、今頃きっと超美人に育ってるに違いねぇ。恐らくあと数年でモデルか女優デビューが待ってるはずだ。
手前の初恋とはレベルが違うんだよ!」

来神高校のある日の昼休み。仲がいいのか悪いのか、屋上で弁当を広げる4人の少年。
そのうち2人が来神きっての問題児のため、他の生徒達は近寄るどころか屋上に続く階段にすら足を向けようとしなかった。
正確には、4人が4人とも何気に問題児ではあるのだが、先ほどからぎゃあぎゃあ五月蝿い二人の少年、折原臨也と平和島静雄が突出して問題を起こすため、その影に隠れる事になった岸谷新羅と門田京平は、比較的手加減されたレッテルを貼られるだけで済んでいる。
しかし、いつまで続くのか…。臨也と静雄の口論を黙って聴いていた門田が、新羅にぽつりと言葉をかけた。

「…あれは、結局。お互いの好みは目の前にいるって言い合ってるのか?」

彼らの主張する内容から察すると、初恋の相手の性別が異性なだけで、どう聞いても臨也の好みは静雄にしか思えず、静雄の好みは臨也を差しているようにしか思えない。
もちろん、門田は冗談と言うよりも、安息の時間を毎日くだらない喧嘩で潰されていることに対して若干の嫌みを籠めたつもりであったのだけれど…

「臨也は小学校の時に静雄が“しずちゃん”って呼ばれてた事を知らないみたいだからね」

岸谷のさらりとした爆弾発言に、言葉を失くすはめになった。


「あれ?知らなかった?臨也は小学生1年生の時、1週間だけ避暑で田舎に遊びに行った事があるんだよ。
その後も、臨也は初恋の人に逢いたくてちょいちょい家出をしては田舎に行ってたみたいだけど、二度とその相手には逢えなかったらしい。
ちなみに、静雄は毎年祖母の家に遊びに行っていたんだけどね、小学校2年生の時におばあさんが亡くなってからはそこに近寄ろうとしなくなってさ。結局、未だに悲しくてお墓参りには行けてないそうだよ。
ついでに言うと、静雄の祖母の家は臨也が避暑で行った田舎にあるんだよね。」
「おい!岸谷、ま…「つまり、臨也と静雄はお互いが初恋だって気が付いてないんだけなんだよね」

まて、と言う言葉は間に合わず。門田は聞きたくなかった事実を耳にして、青くて綺麗な空を仰いだ。
浮かぶ真っ白な雲は汚れもなく何て羨ましい事だろう。自分も、あの雲のように自由にふわふわと飛んで行ってしまいたい。
現実逃避をする門田を尻目に、隣りではまだ、初恋自慢と言う名のただの惚気が繰り広げられていた…。


20111026

多分、出会った瞬間、お互いが女の子だと思い込んで疑わない2人。「なんて呼ばれてるの?」って訊かれて「…しずちゃん」って答えた静雄。ちなみに静雄は照れくさくて臨也のことを「おい」とか「おまえ」としか呼んでなくて、名前言うの忘れた!って、浮かれてた臨也が後で真っ青になる。そんな小学生時代妄想でした。