漢前彼氏 | ナノ




「シズちゃん。俺の好きなところって、どこ?」

先日、害虫以下のノミ蟲から恋人へと劇的な昇格を果たした、折原臨也こと黒い塊が甘ったるく訊いてくる。
小首を傾げて上目遣いに覗きこんでくるが、これっぽっちも可愛くない…と言うより、条件反射で殺意がわくのでやめて欲しい。
好きなところなんて特にない、と答えると、不本意だとばかりにふくれっ面になって、「ひとつで良いから教えてよ!」と、ますます難易度の高いピンポイントで良いところを上げろと要求してきた。

「ひとつっておまえ…ないだろ、逆に」
「何でなの?!あるでしょ?ひとつぐらい!ひとつで良いんだよたったひとつ!!俺はシズちゃんのいいところ10個でも20個でも100個でも言えるよ?!顔とか瞳とか髪の毛とか爪の形とか、何でも良いんだよ!!」
「顔…は、別に普通だろ。強いて言うなら幽の方が良いし」
「ちくしょう…!芸能人顔兄弟め!!!これでも俺、眉目秀麗で通ってるんだからね!もちろん自称じゃないよ?10人に9人の女性が絶賛する顔なんだから一般的に見て良い方ってことでしょ!?いいよもう、顔は!じゃあ、瞳は?!瞳はどうなの?」

半泣きで必死に言い募ってくる姿に、少し悪い事をしたかと思いつつ正直に答える。

「瞳は…。まぁ、気持ちが高ぶった時にうっすら紅く光るところは、悪くないと思うけど、お前全体的に濁ってるからな…。幽の澄んだ瞳と比べるとお世辞にも綺麗だとは言えねぇだろ」
「あああああ!!!もう、なんなの、このブラコン…!!!そりゃそうだよね、物心ついた時からKOK、キングオブ完璧な芸能人の卵が居たんだもんね、基準が全部芸能人並みになるよね!“芸能人と見紛う美形”と“芸能人”は超えられない壁が高く高く立ちはだかっていますよね!!」

臨也のテンションがどんどんおかしくなっていく。
そもそも、好きなところが一つでいいとか、具体的な例を求めてきたこいつがいけない。ひとつだけ、なんてないのだ。逆に、一つしか好きなところがないのに、俺がこの最低なノミ蟲を受け入れられるわけがない…。

「ねぇよ。ひとつは無理だ」
「…」

絶望に暗く落ち込んでいく臨也の顎を取り、上を向かせて目を合わせる。

「ただ、全体的に…なら、嫌いじゃない」
「!!!」

きゃぁ、だか、わぁ!だか悲鳴が湧いて、そういえばここは信号待ちのスクランブル交差点だったな、と、自分たちの居る場所を思い出した。

「シズちゃぁあぁん らぁぁああぁあぁぶッ!!!」

犬のように飛びついてきた臨也を腰にぶら下げたまま、とりあえず新宿に帰ろうと青になった信号を渡った。


20111030

天然たらしで男前なシズちゃんがベッドで啼かされるのがたまらないです!ハスハス