トリックオアトリート | ナノ




月曜日。一般的な社会人は否がおうにも、出勤をせねばならない。
土曜日も日曜日もほとんどベッドで過ごすと言う爛れた生活を送り、結局、今朝も明け方まで散々睦み合った。せっかくの2連休でやった事がセックスだけだなんてなんだか切ないが。目が覚めた時に幸せそうな臨也の腕に囲われていて、まぁ、悪くないかもしれない、なんて思ってしまった以上、自分にも否は有るだろう。

しかし、流石の静雄も身体を酷使し過ぎては体調が万全とはいかず、情けないがトムとヴァローナに迷惑をかけてしまった。
午後になり体力的には回復しつつあるのだが、いかんせん寝不足で気持ちが悪い。
昼食を摂る気になれず、煙草でも吸って時間を潰そうと2人と別れてどんより歩いていると、百貨店の1階で人だかりの有るブースを見つけた。
なんだろう?と、覗いてみると、そこには直径10cm程の可愛いらしい缶が積まれている。
まるで、飴やお菓子が入っていそうなその缶に、嫌な予感とデジャブが過ぎる。似ている…。臨也の買ってきた、あの缶に。
ざっと見、二日間の爛れた生活のきっかけとなったデザインのものはないようだが…。
いつの間にか、静雄を知る池袋の住人は蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、さっきまで賑わっていた一階は開店前のように静かになっている。それに気が付いていないのは、原因である静雄と、他の地域から来ていて池袋の喧嘩人形を知らないのであろうそのブースのお姉さんだけである。
人がいなくなり、全ての缶を見渡すことが出来た静雄が売り場のお姉さんに声をかけた。

「ひょっとして、これ、オレンジに黒でオバケやお墓のデザインがあるやつも有りました?」
「ああ、はい!有りましたね。人気で完売しちゃっていますが、それ多分、トリックオアトリートってタイトルのデザインです。
この缶、一見お菓子みたいですよね。全部使ってもらった後は綺麗に洗って、小物入れやお菓子入れに出来ますし、ハロウィン柄でしたら来年も部屋に飾れるから人気だったんですよ…」

お姉さんの説明を、すでに静雄は聴いてはいなかった。
よく思い返せば、静雄が風呂に入る前にはその缶はなかったし、怪力を差し引いても缶の蓋はほとんど閉まっていなかった。
そもそもセーフティテープがなかったのは明らかに不審だ。一度開けてわざと緩く閉めていた、と考える方が自然である。
だいたい、、臨也が土曜と日曜の仕事をわざわざ金曜の朝からこなしていたのもおかしい。
シズちゃんとデートしたかったから、等と可愛い台詞ではにかんでいたので、健気な奴め…と乙女心がくすぐられたが。あれは昨晩、静雄がどう動いてどうなるのかを計算し尽くし理解した上での行動ではないのか。
全て、臨也の企み通り…
そう、思い立ったとたん、静雄は低く地を這うような唸り声とともにそこを飛び出した。
すぐに、嗅ぎ慣れた…ほんの数時間前まで隣で薫っていた匂いを見つけ、問答無用で近くに有った自動販売機をその黒い影に投げつける。
最近見る事のなかった池袋最強と新宿最凶の久しぶりの追いかけっこに、池袋の住人達はどこか嬉しそうにその場所を空けた。

「あははっ!シズちゃんたら熱烈なイタズラだなぁ!愛はたっぷり感じるけど、そんなの当たったら流石に死んじゃうし。甘いお菓子好きなだけ買ってあげるから俺の可愛い悪戯くらい許してよ!」

ハロウィンの本番は今日である。

「俺からの返事は、トリック アンド トリックだぁぁあ!覚悟しやがれ変態ノミ蟲っ」

今日一日、ずっと追いかけてやろうと静雄は標識に手を伸ばした。


トリック オア トリート



20111029

ネタを考え付くきっかけの保湿クリームは、水に濡れてもぬるぬるしないので、ぬるぬる感の嫌いな自分にとっては相性がとてもいいです♪あと、缶が可愛いすぎてv