拍手お礼文(約束)2 | ナノ





あの怪物が死んだ。



自動喧嘩人形、池袋最強、絶対に喧嘩を売ってはいけない人間。様々に揶揄された、羨望・憎悪・畏怖の混じった彼の二つ名。一歩、池袋に足を踏み入れれば否が応にも耳を荒らしたその渾名が、人々の口に上らなくなるのにそう時間はかからなかった。
夏の日差しを容赦なく照り返す、コンクリートで装飾された池袋の街は胡散臭いほどに日常で。1ヶ月も経たないうちに噂すらも飲み込んで、平和島静雄が生きていたと言う記憶すらも跡形もなく平らげてしまった。

葬式すらもない。

平和島静雄の実弟の平和島幽に確かめたところ、現実を受け入れて下さいとだけ言われて追い返された。
いやはやシズちゃんにしては質の悪い嫌がらせだ、と。からかわれているんだ、と疑って、1年間。その姿をくまなく探したが行方は一向に掴めない。
それでも、臨也はあの化け物が死んだなんてどうしても思えず、翌年も、事ある毎に彼の生存する痕跡を見つけようと躍起になった。
池袋から関東へ、関東から東海、東北、関西、九州…。臨也の放った捜査網は、全国津々浦々を余さず撫でる。
けれども、どれだけ探そうが時間は無駄に流れていくだけだった。

探し始めて3年が過ぎて、ふと臨也は、彼は本当にあの時の自分の言葉を信じたのだろうか…と考えた。

「一緒に死んであげる」そう囁かれて、それを口にしたのが憎くて大嫌いな俺だったとしても。それでも、シズちゃんは嬉しかったのだろうか。死んでも一人ではないから寂しくはない、などと、どこにでも居るただのつまらない人間のように考えたのだろうか。
無神論者の自分には、死後の世界とか死ぬ瞬間に幸せかどうかなんて、まったくどうでも良い事だったけれど…。

そう考えたとたん、死ぬとつまらない、から、死ななくてもつまらない、と云う感情が臨也の身体を満たした。
身体が死ななくたって、人の心は死ねるのだ。

なんの事はない。

平和島静雄が死んで本当に困るのは折原臨也の方だった。


シズちゃんがいないとつまらない。



  世界から全ての色が消えるほどに。





20110608

つづく