※ネタばれになるので詳細は言えないのですが、モブ×静のガチ展開は書けません。 ※みだらはハピエンらぶ! ※おためし読み用の文なので、最終推敲できてないです。すみません;; それでも良ければどうぞ〜↓ ===================== 運命と云う不確かなものが有るのか否か。 目に見えないそれを、折原臨也は当然のように信じてはいなかった。 運命の出会いと言うものが実際にあったとして。 あらかじめ出会う事が当たり前のように決まっていたり、引き合うにしろ反目するにしろ無視など出来ない程にお互いの存在を認め意識し合うなど…、茶番以外の何ものでもないだろう。 抗えざる大いなる神の意志。個人の瑣末な抵抗程度では分岐させる事が出来ない絶対の決定事項。 比較的善良だと思われる一般市民が結局割を食うような今の世の中にとっては、そんなものは神の悪趣味を物語る最たるものになりうるだろう。 善良だと思われる一般市民に割を食わせる元凶であり、なおかつ無神論者の自分にしてみれば、そんな神の意志なる運命など世迷い言の狂言でしかない。 ただ、惰弱で愛しい愚かな人間たちの心の拠り所としては、必要である悪だとは思うけれど…。 黒い学ランに身を包み、教室の窓からカーテンを揺らし流れ込むささやかな風に前髪を弄ばれながら、臨也は、ふぅ、とため息をついた。 日差しが日に日に強くなり、じっとり汗ばむ事が多くなったこの季節には、髪一筋を攫う程度の微風でさえも有り難い。 登校時間までには僅かに早いため、この教室には自分以外に数人の学生しかいなかった。 あと10分もすれば校門からはアリのように生徒たちが入ってきて、15分と待たずに静かな教室は喧騒に包まれてしまうだろう。 常と変わらない登校風景を頭に描き、臨也は、すっと目を閉じる。 あの化け物…−平和島静雄との出会いなら、平凡で陳腐な言い回しだけど“シズちゃんとの出会いは運命だった”と、表現してやっても良いかもしれない。 先ほどまでの自身の考えと対極にあるような思考に、酷い矛盾だと自嘲する。 けれど、それをふまえても。…否、ふまえるからこそ、俺とシズちゃんを表すならば“運命”が適切だと思うのだ。 出会うべくして出会い、引き合うよりも強い想いで反目した。 相反するようで同じもののように相違ない。まるで、コインの裏表のような関係。 臨也も静雄も意識せずともお互いを理解し求め合っている。 あたかも、自分が相手を殺せば欠けているものが埋まり完全なものになれるような錯覚。その身も心も喰らいつくし1つの真円に成るための渇望を孕む、倒錯した殺し合い。 そこにはまさに、運命としか言い表せない魂の執着があった。 そうでなければ、こんな想いを自分が同性に抱くわけがない。 自身の劣情を世の摂理とし正当化するために自分勝手な考えを繰り広げて、臨也はそう結論づけた。 折原臨也は平和島静雄がどうしようもなく欲しかった。 愛よりも醜く、恋よりも激しく、その存在その魂ごと喰らいたい、と思うほどに。 暗い深淵で自身に幾度めかの言い訳をし、臨也は閉じていた目を開ける。 そろそろだ。 間もなく目当ての人物が姿を表す時間である。 今日は彼に嫌がらせと言うプレゼントを用意しなかったから、予定通りの時間に校庭に足を踏み入れるに違いない。 そうして、臨也は今日も登校してくる静雄を眺めるのだ。 そのために人より少しだけ早く登校し、教室の窓から烏合に混じる異質で美しい金髪が視界に映るのを待望する。 彼が歩く姿を観察して、その日と翌朝ひいては未来に繋がる嫌がらせを胸をときめかせながら考える。 それは、入学式から続く臨也の密かな日課だ。 毎日飽きもせず、金髪が正門を通り抜け校庭を横切る間、今日は…明日の朝は…どのように彼の清廉な魂を憤怒で汚し精錬な顔を苦痛で歪ませようか、と、思い描く。 さて今日のシズちゃんのコンディションはどうだろう。 臨也が正門に金を認め、そう考えた時。ほんの僅かだが何か言いようのない違和感を感じた。 違和感の正体は分からない。 そのシルエットはまだ豆粒のように小さく顔すら判別つかない距離だったが、一種の勘のようなものだろうか。臨也は何かがおかしい、と確かに感じとった。 気のせいかもしれない。 ひょっとしたら古い牛乳でも飲んでお腹を壊したなど些細な原因かもしれない。 それを確認したところで、自分がどれほど静雄に妄執しているのかを思い知り、酷い自己嫌悪に陥るだけかもしれない。 けれど、それでも構わないと臨也は思った。 今、臨也を包み、警鐘と不安を掻き立てる違和感は、奈落へと突き落とされる瞬間の恐怖さえも纏っていたからだ。 ああ、やっぱり…。 昇降口で待ち伏せていた自分を見て、シズちゃんが固まった。 いつもなら臨也が現れる前に存在を察知し、その姿が視界に入るや否や怒号をあげて襲いかかってくるのに。 なのに、目の前のシズちゃんは…。 周りにいた生徒たちは最悪の2人が揃ったのを見てさっさと逃げ出していた。 今、昇降口には俺たちだけだ。 どんなネットワークが有るのか。後から入ってくる生徒もいない。 こんなシズちゃんを…−俺を目の前にカタカタと震え顔面蒼白で立ち竦むだけのシズちゃんを、誰かに見られなくて良かったと思う。 非現実のようなシズちゃんの怯え方に、珍しいものを見れたと愉悦に浸る事も出来ない。 何があったの?と肩に触れようとすると、それまで脚に根が生えたように不動だったシズちゃんが「ひっ」と恐怖に引きつった声をあげて俺の手をはじき、その反動で膝から崩れ落ちてしまった。 過呼吸のように細い息をはっはっと吐き、両腕でぶるぶる震える自身をきつく抱きしめながら「さわ…る、な…」と小さく弱々しく紡ぐ。 首部を垂らしたうなじからは痣と鬱血が除き、白いシャツの下には普段着ることのない黒いTシャツ。 ああ、これはもう…。 臨也は絶望と怒りでくらくらと目眩がするのを感じた。 「シズちゃん…あのさ…」 俺の声にシズちゃんが分かりやすくびくついた。 かすれて上擦った自身の声を滑稽だと自嘲する余裕もない。 「違ってたら…違うって言って良いんだけど」 むしろ、違うと言って欲しかった。 「ひょっとしたら、シズちゃん …男に犯された とか、 言わないよね?」 沈黙が重く落ちる。 それは、一瞬が千日とも思える長くて短い痛くて苦しい拷問のような時間だった。 早く、そんなわけがないと否定をして欲しい。違うなら、ふざけた事言うなと殴られてやっても良い。いっそ、嘘でも構わないから…− 臨也がそう願った時、固く閉ざされていた静雄の唇がわなないた。 「…お前、何 企んでるん…だ?」 喉を傷めたように低くかすれた弱々しい声だ。 “ような”ではなく、実際傷めているのだろう。 喉を潰した原因を知りたくなくて、無意識に逃げ道を作る自身の思考回路が憐れだ。 「…知らないよ。俺じゃない。俺は何もしていない」 事実を告げた臨也に、静雄は開こうとした口を力無く閉じた。 シズちゃんはそのまま元来た道を帰り、俺は人形のように無感情にただぼうっと自分の席に座って放課後を迎えた。 20110618 だいたいこれで1/4くらいだと思います。 |