※ちょっとモブあります。ギャグです。 「…なぁ、モデルって、ビデオなんか用意する必要あるのか?」 デリックが男に連れてこられた場所は、入り組んだ路地裏にある古いビルの一室だった。 それなりに広い部屋の中央には、大きなベッドとそれを取り囲むように照明やビデオカメラが並んでいる。 「もちろん!動いてるところを撮るからね!」 パンっと手を叩いて男が合図をすると、ドアからぞろぞろと仲間だろうか、数人の男たちが入ってくる。 「それじゃぁ、脱いでもらおうかな」 「は?脱ぐ?なんで?」 「そりゃあ、君のエッチな姿を撮るためにだよ」 え?と言う前に、デリックは入ってきた男たちに腕を掴まれベッドに押し倒された。 「いって!なにすんだ!そんなの聞いてないっ…!!」 「おいおい、ここまでのこのこ着いて来ておいて、それはないだろ」 デリックに圧し掛かっている男が、興奮しながらピンクのシャツに手を伸ばす。 プツッっと音を立てていくつかボタンが飛び、デリックの顔が恐怖で引き攣った。 「だってモデルって言うから俺…」 「だから、モデルだよAVの」 「そんな…」 エロい服着て誘っておいて、今さら何を抵抗してるんだ?それとも煽ってんのか?と、下卑た笑いと掌がデリックの全身を撫でまわす。 姿形はうり二つでも、静雄のような膂力のないデリックは、それに抗う事など出来ない。 嫌だ、だれか… 日々… 絶望の中、頭をよぎった人物に、今さら助けを求める事なんてできないけれど…。こんな事ならもう少しちゃんと日々也の言う事を聞いておけば良かった…と、デリックはぎゅうっと強く目を瞑った。 瞬間、、 「デリックさん!!」 バァン、と、派手な音を立てて固く閉ざされていたドアが外から開けられた。 「…本当に貴方は。いくら経験豊富でも、自分をもっと大事にしていただかないと困ります」 まさに、王子に相応しいスマートさで窮地を救われたデリックは、臨也のマンション近くの公園で日々也に慰められていた。 「こわかった…」 日々也に渡された温かい缶コーヒーを手で転がしながらぽつりと呟く。 「もうこんなの、二度といやだ」 意に沿わぬセックスを強要されそうになり、デリックは日々也の熱に包まれて安心したいと思っていた。 他でもない、あの恐怖の中で自分の頭を占めた日々也に。 「日々也、抱いてくれよ」 デリックを気遣うように傍に佇んでいた日々也を見上げてそう告げると、日々也は目を丸くして息をのんだ。 「私…が、貴方を慰める役に選ばれたと言うのは大変光栄ですが…。 ですが、その…。私は、童貞ですし。貴方の事が好きなんです。 たとえ貴方の気まぐれでも、肌を重ねてしまったら、私は、貴方が他の誰かと肌を重ねる事を許せなくなってしまう」 今だって、貴方が他の誰かを誘うのを見るのがとても辛いのに…。そう言って目を逸らす日々也に、手を伸ばして抱きよせる。 「いい。それでもいい。お前重いけど…。お前がいいんだ」 「デリックさん…」 そっ、と日々也の腕が背中に回るのを感じて、デリックの心は温かく震えた。 「日々也、俺初めてだから優しくしろよ」 抱き締めたまま耳元で囁くと、それまで静かだった日々也が、弾かれたようにデリックの肩を掴んで身体を引き離した。 「え?初めて?!」 いつも物静かな日々也の、叫ぶような声と信じられないものを見るような顔に、咎められているような気分になりむっとする。 「なんだ、初めては嫌か?」 「ッ!まさか!!…すごく、嬉しいです!」 剥がされた身体を今度は痛いくらいに抱き締められ、「精一杯、優しく大事にします!」と叫ばれたデリックは、真っ赤に染まった顔を見られたくなくて日々也の胸に熱い頬を押し付けた。 カチャリ、と、玄関のキーが開く音が聞こえる。 「あれ?日々也とデリック帰ってたんだ」 リビングで二人が睦み合っていると、買い物に出かけていたらしい臨也と静雄たちがスーパーの袋を大量にかかえて入ってきた。 同じ顔の美形が6人そろって買い物をしていたのなら、さぞや注目を浴びたに違いない。 「…って言うか、結局付き合うことになったの?」 臨也の声に、好奇心を隠しもしないサイケの声が重なる。 「とうとう、淫乱ビッチのデリックに日々也食べられちゃったんだね〜!で?どうだった?」 「サイケ…!!」 津軽がサイケの下世話なセリフを咎めるが、日々也は気にする様子もなくにこにこと笑顔で返した。 「デリックさんは処女でしたよ」 その内容に、その場にいた日々也とデリック以外の全員が驚きで固まる。 「…え?嘘だろ!?だってあんなにセックスしようって誘ってたから…俺は、てっきり臨也あたりが手を出したんだとばかり…」 「やだな、シズちゃん!俺は何気にシズちゃん一筋だよ?変な誤解しないでよ!!サイケが相手してたんじゃないの?」 「俺だって津軽一筋だし!だいたい、デリックなんていつでも抱けるからすぐ抱く必要なんてないでしょ?」 静雄に濡れ衣を着せられそうになった臨也があわててサイケに話題をふり、とばっちりを受けそうになったサイケは冗談じゃないと頬をふくらませる。 「…てことは」 六臂に見つめられ、頷きながらデリックは答えた。 「そうなんだよなー。みんな、いつでも抱けるからって言って全然手ぇ出してくれなくてさ!」 実際やったのは日々也が初めて!と、あっけらかんと笑う。 「…じゃあ何で、ビッチなんて言われても否定しなかったんですか?」 ふと疑問に思い、日々也がたずねた。 ビッチだなんて不名誉な称号、事実でないなら否定すれば良いのに…。 「だって、ビッチって言われてた方がセックスする時 気が楽だろ?」 悪びれずにっこり笑ったデリックに、愛しさやらこれからの不安やら複雑な感情が渦巻いて、肩を落としながら日々也は少し情けない顔でほほ笑んだ。 「ああ、貴方って人は…」 馬鹿な子ほど、なんて愛しい 「いいですか、私と貴方は恋人なんですから、お互い以外の人とはセックスしたら駄目ですからね?誘うのも禁止です。 その代わり、私が貴方をどれだけでも愛して満足させてあげますから」 「わかった」 その後、デリックは日々也からうんざりする程丁寧に貞操観念を説き伏せられたのでした。めでたし! 20110605 やっつけすみません。元ネタは某青春野球ドラマのバンビとモー子的な。ビッチだと思われて「いつでもやれるから」って誰も手を出さなかったせいで結局処女だった、とか、神設定すぎておいしいです。 |