【ただ一度きりの】6 | ナノ


二人分の体重を受け止めたキングサイズのベッドが軋む。

「やめ…ろ。はなせっ…!」
腕をひとつにまとめられ、頭の上で縫いとめられた。
容易く外す事のできるはずのその拘束が、まるで、いつかナイフで壁に磔られた時のように身動きの取れないものとなる。

「黙れ。大人しくしないと口にナイフ突っ込むよ」

なけなしのプライドをかき集めてようやく拒否を示したのに、容赦なく切り捨てられ乱暴に服を剥がされた。いくつかボタンが飛んで頬を掠めて床に転がる。
数少ない私服を台無しにされた事を咎める余裕もなく、襲い来る柔らかい凶器に身体が震えた。

「あ、あぁっ!…ん……ふぅ…」

今朝まで散々弄られ、先ほど風呂でも丹念に洗ったため、いつも以上に敏感になっている胸の突起を食まれ、悲鳴のような喘ぎ声が零れてしまう。
ねっとりと舐め上げられ舌の先端でちろちろと転がされれば、それだけでびくびくと胸が跳ねた。

「あはっ!どうしたの?この程度の刺激で、もう限界なの?最初っからクライマックスみたいだねぇ。あの冴えない男にどんなふうに触られたの?」
馬鹿にしたように笑いながら嘲られ、カァッと血が上る。
「うるせ…ぇ。も…やめろ。」
「なぁに?俺じゃ足りなかったから他の男に抱かれたんでしょ?だから、シズちゃんが満足するまでヤってあげるんだから感謝してよね」

「うあ…ぁ。…く……うっ」
突起を噛まれ舌で転がされ、もう片方は摘ままれ引っ張られ、感じたくもないのに快楽を教え込まれた身体は意思を裏切って貪欲に快楽を拾う。

「今まで何人の男に抱かれたの?ほんと、シズちゃんのくせにやってくれるよね。まさか、淡白なふりして裏でウリやってたとか。流石の俺でも一杯喰わされたよ。殺したいくらいむかつく。
でもさぁ、殺したらそれでお終いだもんつまんないよねぇ?
そんなら監禁でもして、シズちゃんが俺じゃないと駄目な身体にしてぐっちゃぐちゃにして捨てたほうが面白いよね。
まぁ、シズちゃんが泣いて縋れば捨てるかどうか考えてあげてもいいけど…」

スラックスを脱がされ、今朝の情事の痕が生々しい足が外気に晒される。
内腿の痣をゆっくりなぞりながら臨也が呟いた言葉に、快楽に流されかけていた思考が引き戻され、男と女の修羅場が頭をよぎった。

「…ざけんなっ!そんな事したって、俺は死んでも手前に縋ったりしねぇよ!」

売り言葉に買い言葉で放たれた言葉が、空気に余韻を残す間もなく、ガツッと鈍い音がして頬に痛みが走る。
枕に沈む頭と、常人より頑丈な自分を殴ったせいで手が痛いのだろうか、顔を顰める臨也が目に入り殴られたのだと気がついた。
痛みはそれほどなかったのだが、それよりも、再び表情を一切消して無言になった臨也に、自分の失態を思い知る。

冗談ではなく殺されるかもしれない。
しかも、原因がセックスだなんて。服上死ならまだしも、自分は入れられる方だから、その場合はなんと言うのだろうか…。

そんな、下らない事を他人事のように考えて現実逃避してしまうくらい、それからの時間は長く絶望的だった。




20110512

つづく