臨也誕生日2011/5/4 | ナノ

※時系列がややこしくてすみません。



何気なく校舎廊下の窓から中庭を見やると、見たくもない光景が目に入ってきた。
ここからじゃ何を話しているかは分からない。けれど、少女が頬を染めて渡した物を見て、静雄はなるほどと思った。
可愛いらしくラッピングがされたそれは、間違いなく誕生日プレゼントなのだろう。
そういえば、あいつの誕生日は5月の大型連休の真っ只中だ。
別に、嫌いな相手の誕生日など積極的に知りたくはなかったが。シズちゃんはいいよね、と何日か前にあいつが言ったから。
それでなんとなく覚えてしまったのだ。


誕生日なんてものは、1月だろうが5月だろうが静雄にとってはどうでも良いことだった。
早生まれは良い事も有るけれど、学生でいるうちは損しかしない。
それにどうせ、思わぬ相手からのプレゼントなんて期待するだけ無駄だから、誕生日が休日かどうかも重要ではない。誕生日が休みだからと前倒しでプレゼントが貰えるなら、それこそ休みか平日かなんて些細な事だろう。

なにがいいよね、だ。


受け取っているプレゼントの中身は分からないけれど、なんとなく、それ以上その光景を見たくなくて静雄は窓に背を向けた。




「シズちゃんはGW何してるの?」
帰り道で始まった喧嘩の最中に、いきなり変な事を訊かれた。
「ああ゛?」
ナイフを向けられ、標識で応戦している最中にする会話ではない。
「旅行?…は、ないよね?ずっと家に籠もってたりするの?」
「…てめぇには関係ないだろ」
「あれ?図星?」
明日から始まる大型連休の予定なんか特に決めていない。どうせ外を歩けば喧嘩を売られるだけだ。喧嘩をするために好き好んで出歩く趣味はないから、結局家に籠もる事になるんだろう。
けれど、臨也に指摘されてそうしたと思われるのも癪だった。

「…ゲームする予定だ」

苦しい言い訳だったかもしれない。
しかし、意外なことに臨也は食いついてきた。

「…ふーん。シズちゃんがゲームねぇ…。幽くんと?」
「…いや、ひとりで…」
「オンライン?」

…オンライン?オンラインてなんだ。ゲームはゲームだろう。自分ですら知っているwiiとか言う有名なゲームの名前の一種だろうか…。
正直、ゲームはほとんどやった事がないから全然詳しくない。

「狩り系?シューティング系?ははっシズちゃんがオンラインで交流とか…。似合わないし可哀想〜」

臨也が呪文のように何か言っている。
馬鹿にされている事は分かったが、下手に返して嘘がバレるのも不味い。話を変えるか終らせる方が良いだろう。

「手前には関係ねぇ」
「…まぁ、そうだけど」
調べようと思えば調べられるし、と臨也はさらりと怖い事を言って、あっさり引き下がった。
臨也がどれだけ調べても、実際やらないゲームの事なんて何ひとつ分からないだろう。GW中、ずっと調べていたら良い。
それはささやかだが、何故か魅力的に思える嫌がらせのように感じた。

「あれ?もう諦めるの?」

気が殺がれて臨也に背を向ける。
いつもなら臨也に撒かれるまで続く追い掛けっこを、静雄の意志で止めるのは珍しい。

「せっかくの休みなんだから1日くらい外に出なよ」

「…気が向いたらな」

どうせ、外に出たとたん見計らったように追い掛けっこが始まるんだろう。
それでもGWに1日ぐらいなら、遊びに出ても良いかもしれない。


それが、5/4になるかどうかは別として…。




明日から大型連休ともなれば、放課後の教室に残っている影はまばらだった。

「形がないものの方が贅沢だなんて、生まれ始めて知ったよ」

先ほど、顔も覚えていない女子生徒から受け取った誕生日プレゼントを、手の上でくるくる回しながら臨也が呟く。
「それには静雄君の協力が必要不可欠なんでしょ?」
どうして臨也の秘めた想いを知ったのか、言われたくなかった言葉を数少ない友人から告げられて臨也は盛大に顔をしかめた。

「怖いなぁ。睨まないでよ」
「新羅が変な事言うからでしょ」
「おや?だからGWに誕生日があるなんて嫌だ〜って、静雄君に言ったんじゃないのかい」

数日前、静雄に零した言葉が目の前の人物にも伝わってしまったらしい。
鈍感な静雄だから漏らした本音だったのに…。
この様子では、彼は新羅に何か入れ知恵をされてしまっているかもしれない。
まぁ、それならそれで好都合。存分に利用させてもらうけれど。

「どこ行くの?」

ガタン、と音を立てて自分の席から立ち上がった臨也に、新羅が訊ねる。
その顔はどこか笑っていて、訊かなくても見当はついているようだった。

意地が悪いなぁ…。
人の事は言えないけど。

「誕生日プレゼントを予約しに行くんだよ」
ガコンッっと音を立てて、持っていたプレゼントだったものがゴミ箱に吸い込まれた。
「どうせ貰うなら当日に欲しいでしょ?誕生日プレゼントは。」
背中で呆れたようなため息が聞こえたのに無視をして、目的の人物を探すために携帯を取り出した。

どうでも良い女子生徒の呼び出しにわざわざ応え、受け取るだけ無駄なプレゼントを受け取る。貴重な時間を潰してでも遠回りをするだけの価値はあるだろう…。



君の時間が独占できるなら







それは何より贅沢な

誕生日プレゼント


20110504

「シズちゃんはいいよね」→新羅からの入れ知恵→中庭場面→臨也と新羅の会話→「GW何してるの?」
な流れでした。
説明しないと分からないぐだぐだ感がみだらクオリティです。サーセン!
5/4は約束通り追いかけっこのプレゼントがもらえて、休日にシズちゃんに会えた臨也の一人勝ちです。