【ただ一度きりの】2 | ナノ

※R18ではないですが、若干無理矢理な過去回想なのでご注意ください※



いやだ、やめろ、と引き絞るように何度口にしても、臨也は行為をやめようとはしなかった。
誰にも見られることも触らせることもなかった秘所に無理やり押し入られ、堪えていた涙が目尻から零れる。
恐怖と屈辱と圧迫感と激痛に、思考の全てさえも犯され、抵抗の出来ぬまま臨也の好きに身体を弄ばれた。
痛い痛いとみっともなく叫んでも、臨也は容赦しなかった。
それでも、シズちゃん身体だけは最高だね…、と荒い息を吐きながら、いつもは余裕を残す男が必死に腰を振っていた事だけが滑稽で、救いだった。

何度も最奥を突かれ、体内に白濁を注ぎこまれ、快感なんてこれっぽっちも感じることはなかった。
それがいつ終わり、どうやって家に帰り、どのようにしてベッドにもぐったのかさえ覚えていない。
次の日。体調を崩し熱でうなされながら、静雄は何ひとつ抵抗出来なかった自身を恨み、ノミ蟲だけは死んでも殺す、と、臨也を駆除することを心に誓った。


その時の静雄は、それが臨也の身体を張った嫌がらせで、一度きりで終わるものだと思っていた。


ところが、強姦され熱にうなされた静雄が回復し 数日ぶりに登校をすると、あろうことか、臨也は再び静雄を犯そうとした。
一度味わった恐怖なら二度と後れは取らないと、静雄は当然のようにそれを返り討ちにした。
完膚なきまでに叩きのめし、今後一切俺に近づくな、と捨て置いたのに、臨也は悪びれることなく更に静雄を襲った。

しかも、今度こそ非人道的なやり方で。

静雄の白く無防備な掌に、鋭いナイフを埋め込み壁に縫いとめて。静雄にさえ引きちぎれないような特注のワイヤーで雁字搦めに縛り付けて。媚薬だか麻酔入りだかいかにも怪しい薬を投与して。
ありとあらゆる方法で襲われ犯され、いつの間にか男同士のセックスにも快感を覚えるような身体にされてしまった。

高校を卒業し、ようやくこんな関係ともおさらばだ、と安堵した静雄の前に。けれども、いけしゃあしゃあと臨也は現れた。
「シズちゃん男の身体大好きでしょ?せっかく俺が開発したのに、勝手に他の男に身体開いて変な癖つけられるなんて冗談じゃないし。シズちゃんが欲求不満になる前に俺が抱いてあげるよ」などとのたまいながら、厭らしく笑う。

その時は、あまりの憤怒に ついに自動車を持ち上げることに成功してしまい、静雄は両親の借金を思って深く落ち込んだ。
「潰れて二度と喋るな糞ノミ蟲。俺は男に抱かれて喜ぶ趣味はねぇ。手前の方が、嫌いな男相手に盛れるんだからよっぽど重症だろうが」と言い返しても、そうかもね、と言って臨也は何故か嬉しそうに笑っていた。
なにがそんなに嬉しいのか。腹立たしいばかりの静雄には理解ができない。したいとも思わない。



それから、頻度は落ちるものの、臨也とのセックスは現在進行形で続いている。
本気の殺し合いをしていながら、時々、体を重ねる。
なだれ込むときの合図はない。しかし、何かを切欠にして臨也の雰囲気が変わる。
そうなると、そこが外だろうがどこかの建物の中だろうが臨也は構わず手を出してくる。
それをかわし、撃退出来れば静雄の勝ち。
静雄の反撃に耐え、汚い手を使ってでも淡白な性欲に微かにでも火を灯す事が出来れば臨也の勝ち。
しかし、快楽を教え込まれてしまった静雄の分は、残念ながらかなり悪かった。
よって、最近ではずるずると流されてしまうことの方が多い。

だめだだめだ、と、静雄は頭を振る。

抵抗しなければ、流されてしまっては、臨也の思うつぼだ。
どうせ、碌でもないあの男は、絆され流され抵抗しなくなった静雄を嘲り蔑み、ボロ雑巾のように捨てるのだろう。
こんな茶番を続けるのも、きっとそれが目的だ。


怖くて痛くて苦しくて 抵抗したくても出来なかったのは、最初の一回だけだった。
その後は、卑怯な手を使われ自由を奪われても、大なり小なり抵抗はした。快感も感じる事ができた。
勿論大人しく抱かれたわけではなかったが、日頃の能力差を考えれば、大人しく受け入れていると言われてしまっても仕方がない行動だ。
そこを突けば、いくらでも静雄を陥れる事はできるだろうし、傷つける事もできるだろうに。臨也はそれをしなかった。
懐柔するわけでも言葉で傷つけるでもなく、世界で一番嫌いな男を抱く。静雄には到底理解のできない事だ。

自分なら、まず、勃たないだろう。

受動的な立場だから反応するものの、逆の立場ならゲイでもない限り男相手に勃つことはない。しかも嫌いな相手なら尚更だ。
つまり、臨也はゲイ、ということだ。
臨也の私生活に興味がない自分からみても、高校時代から臨也は女関係が派手だった。
男の自分を抱きながら女も抱けると云うのなら、臨也は男でも女でも両方イケるゲイと云う事になるだろう。まぁ、それは別にどうだっていい。

問題は、身体の関係がそれからずっと。10年近く経った今でも続いている、と言う事に尽きる。
一回で済まなかったという事は、短期的なダメージを狙ったわけではない。味を占めたから、と言っても、静雄を襲うという事は反撃にあう可能性が高く、ただの性欲処理なら単純にリスクが高すぎる。
臨也がああ見えてかなりのドMなら、そのスリルも含めての性欲処理だ、と、考えられなくもないが…。その可能性は極めて低いと思われた。

ならば何故、臨也はこの関係を終わらせようとはしないのか。


思い悩んだ結果、静雄が導き出した答えは“長期的なダメージを狙った嫌がらせだろう”だった。
恐らく臨也は、静雄の心を殺すつもりでいるのだろう。
気が付いたら心の奥まで侵されて、臨也に執着するようになった静雄を、いつか嘲笑って棄てるのだ。

「どうしようもない下衆だな…」

静雄の口から思わず思考が漏れる。

こんな事を考えている時点で、自分はすでに相当な末期なのかもしれなかった。





思惟は意思を裏切っていつまでもぐるぐると廻る
終わりのない迷路の中なのに…

20110421

つづく