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こっちこっちとヘラヘラ笑いながら手招きする恭平に着いていく。
かさかさと葉っぱが風に揺らされているような音が聞こえてきた。
ほどなくして辿り付いたのが職員室のある棟の裏側だった。
大きな紅葉の木があるそこは昼間でも薄暗いのであまり近付かない場所である。
まさかこの木をよじ登るのか?
恭平なら可能かもしれないけれど、私は恭平に比べたら至って普通の身体能力だ。
それに高校生にもなって木登りなんて…
「おいってば!」
少し大きめな声にビクッとする。
木の向こうで恭平が呆れたような顔でこっちを見ていた。
「こっちこいよ」
「あぁ、うん」
隣まで行くと少し高めな位置に窓があった。
「ここから?」
「おーよ」
恭平はからからと窓を開けてよじ登ると校舎の中に侵入した。
続いてよじ登ろうとすると、紅葉の葉がより大きな音をたてた。
まるでこれ以上進むな、と言われているような気がしたけどそんなわけないと首を振って窓に手をかけた。


持参した懐中電灯の灯りをつけて階段を登る。
「ねぇ」
「んー?」
「なんであの窓開いてたの?」
「あれねー開けておいたの」
なんでも、この棟の一階は殆ど人が来ないから窓の鍵を開けておいてもほぼ気付かれないらしい。
「ちなみに開けたのは陽菜だぜ…っと」
これだぜ、という言葉で顔を上げる。
そこには金色の髪に赤い瞳の黒いワンピースの少女の絵があった。
「これがアリス…」
可愛らしい少女の絵なのになぜか怖いと思った。
ざわざわと不安に襲われて思わずぎゅっと恭平の袖を掴む。
「どした?」
携帯を開いていた恭平がこちらを見る。
「な、んでもない」
今更怖いだなんて言ってはいけないような気がした。
そうか?と言うと再び携帯に視線を戻した。
「よし、今11時11分。
せーの、で飛ぶぞ?」
一つうなずく。
「5…6…」
再びぶわりと襲う不安感。
「7…8…」
怖い。
「9…」

「せぇのっ…!」

小さく跳んだ。


(なにかが開く音が遠くで聞こえた気がした)