「もう、やめろい」 どうしてそんなこと言うの?わたしはまだ好きなのに。 わたしには彼しかいないのに。 「お前のためだよい」 そんな勝手に決めないでよ。わたしの事なのに。なにがわたしのためよ。あなたのためじゃないの。 「わかってくれよい」 わかんない。わかんない。わかりたくない。なんで彼はここにいないの。はやく連れて帰ってきて。はやく。今すぐに会いたい。 「あいつは死んだんだよい。」 そんなの嘘だ。マルコは嘘つきだ。わたしのこと大事に思ってくれるのは彼しかいないのに。先に死ぬなんてことない。 「目を醒ませよい」 そうね、こんな夢なら醒めてしまえばいいわ。彼が死んだなんて夢なら。でもわたしの頬をつねってみたけどズキズキと脈打って痛んでいるのよ。マルコが嘘ついてるしか考えられない。はやく彼に会わせて。 「利用されてるのに気付けよい」 そんなの嘘だ。マルコは嘘つきだ。彼がわたしに嘘をついたことなんて。 「じゃあ、見せてやるよい。」 バラバラと床に散ったものをわたしは何か知ってるわ。合成よ。マルコは器用だもの。 「死んだよい」 「生きてる」 「言い方を変えるよい」 「なに」 「お前の知ってるあいつは死んだよい」 その言葉の直後、マルコの手がわたしの視界を奪ってキスをした。きっと見られたくない顔をしてるんだろう。 わたしだって頭のどこかでわかっていた。ダメになることぐらい。なのに弱いわたしは彼を離すことが怖かった。もうこんなわたしと一緒にいてくれる人がいないと思った。彼がわたしに嘘をついてちがう女の子と会っているのも。だからそれもしらないふりしてなにもしらない純真な女の子を装って帰りをまっていたの。 マルコがわたしのことがすきなのも知っててしらないふりをし続けてきた。だってまだ信じていたかったから。 マルコの手と唇が離れて視界がひらけた。 わたしはちらりと散らばったものに目をやる。気づかないふりしてた現実とごっつんしてわたしは鼻の奥がつんとした。 彼が笑顔で女の子と笑っていた。最後にあんな笑顔を見たのはいつだったっけかなんて頭をよぎったらなんだか涙が落ちてきた。 マルコの腕がわたしを包んだ。それはたくましい腕で彼とはちがう腕だった。ひどくその温もりに安心感をおぼえて、ますますわたしは涙がとまらなくなった。 「しってたの、ずっと」 「知ってるよい」 「……ねぇ、彼は死んだのよね?」 「あぁ」 世界で一番優しい嘘 (死んだという嘘) (だまされたという嘘) |