指先すらまだでした



無償に恋がしたくなる瞬間がある。例えば少女漫画を読んだ後だとかそういうとき。願わくはその漫画のような恋がしたいと憧れてしまう。実際はまずあり得ないだろうけど。
なんて、いままでは思っていたのだけど。


「何見てるんだよい」

「少女漫画ー」

「どんな話だよい」

「先生と恋する話」


するとやってきた彼に本がとられてしまう。まだ読みかけなのにと思ったけれどそんなことは気にしない様子でペラペラとそれをめくった後、ゆっくりと息を吐いた。

「こんなの読んで、悪影響だよい」

「えー、憧れちゃいますよ?」

「先生とくっついたくせに、最終的に同級生とくっつくじゃねーかよい」


速読ですか?と訪ねたらそれぐらいできると答えが返ってきた。この人のできないことって泳ぎだけじゃないのかと最近気になるところである。


「ったく、これでエースとなんかくっついたら俺は嫌だよい。」


「エースはないですよー」


「誰ならありなんだよい。」


「それ言ったら、その子のこと赤点にするでしょ」


「当たり前だよい」



まったくこの『先生』は、ダメな大人だなあと失笑すると、お前も赤点にするぞと悔しそうに言うから余計に笑ってしまった。


「先生は赤点どころじゃすまないでしょ?」

「ああ、懲戒免職だよい」


「そのわりには、堂々としてらして。」



すると、彼は禁煙ガムを口に含んでイライラした様子で髪を引っ掻き回した。学校だからタバコを吸わないその真面目さにわたしは違和感を感じる。なにかぼそりといったがわたしは聞こえないふりをして何か言った?と言葉を催促した。



「だから、まだ触れてねぇだろい。」






指先すらまだでした。
(漫画みたいな関係のグレーなところ)
 
 
 
「生徒に手を出すくせしてタバコは我慢するのって不思議ですー。」
 
「だから、まだ出してねぇだろい」
 
「まだ、ね」
 
「……あんまり大人をからかうなよい」
 
 
 


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