言葉が全て真実ならば










「わたし、マルコさん嫌いよ。」

そう口にしたとき、周りのナース達の私の後ろを見て顔色が青ざめた。どうしたのだろうとその目線の先を追えばそこには、マルコさんが立っていて、いつもよりも眉間に皺を寄せてわたしを見ていた。ああ、どうしようなんておもったときには彼の口が動いていた。



「俺も嫌いだ」



ひどく刺さる声色でそういって部屋をあとにした。それに続くように他のナース達が出ていくなかわたしはその場から動けなくなっていた。






この船のナース達は女子会だといっては勝手に私の部屋に集まって船員達の話で盛り上がる。私の部屋は船室の中でもかなり奥の方にあり、ほかの船員に話を聞かれたりすることは滅多にないからだと彼女達は言い張る。その夜もそんな感じで狭い部屋に集まって大騒ぎをしていた。あの人は背も高いし、優しいとかなんだかって楽しそうだった。仕草だとか癖を見て評価をつける彼女達をわたしはいつも一歩離れた所で見ていた。その日は特にマルコ隊長のことで盛り上がっていた。「優しい」「かっこいい」「変な髪型」の3つの単語がよくとびかっていた。それだけじゃないよって言いたかったけど、それを教えてしまうのはなんだかもったいない気がした。

「そういえば、なまえってマルコ隊長のこと好きよねー」

「え?」

急に振られた言葉にわたしは「んー」なんて普段とらない間をとって考えていた。ここで曖昧にしたり、そのまま好きだと答えたら何か余計な気をつかわれるのが目に見えている。どうせここだけの話なんだから嘘をついた方がいいんじゃないのか。



「わたし、マルコさん嫌いよ。」



よかれと思って言ったそれがまさか、本人に聞かれるなんて思ってもなかった。
今からでもなかったことにできないだろうか。こんなことなら素直に好きだと言えばよかった。いや、その場で振られるのもまた問題だろうけど。


「もーー!ほんとはすきだーー!」


頭の中でずっとぐるぐると巡っていた一番素直な気持ちだった。
叫んだついでに彼に聞こえてしまえばいいと思った。けれど部屋の中がしんとしたのを感じると、そうはうまくいかないよなただでさえここの部屋は奥の奥の奥なんだから。そしてわたしはまた後悔の渦のサイクルに戻ろうと目を閉じた。



ふと、普段なら勝手に開けられるはずの扉をノックする音がした。誰かに会いたいような気分ではないが居留守を使うわけにもいかず、わたしは数センチだけ扉を開いてその隙間から訪問者を確認した。

「俺だよい。」

途端に、パタンと反射的に扉を閉めて普段かけない鍵をかけた。向こう側では「ちょっと待てよい」という声が扉を挟んで聞こえてくる。いや、鬼に待てと言われて待つやつはいないだろう。自然にそのそこから足が離れてしまう嫌いだと言われた相手にわたしはどんな顔して話せばいいんだろう。というかマルコ隊長はこんなしたっぱのしたっぱの私に何の用があるんだ。さっきの叫びが聞こえてしまえと思ったのは確かだけど、会いに来てくれなんて思ってもない。


「開けてくれよい」


彼の声が扉越しだというのによく聞こえた。いつも騒いでるから気づかなかったが、此処はこんなにも声がよく通る部屋だったのかと今更ながら恥ずかしくなった。わたしの嫌いも同じように聞こえたんだろうか。


「なんで来たんですか?」


「いいから開けろよい」


「嫌いな人の顔なんか見たくないでしょ?」


そういうと一瞬の間があった。また言わなくてもいいことを言ってしまったんだと、素直じゃない自分が悔しくて視界がボヤけた。


「俺は好きだよい」


だから開けろと扉の向こう側で声がした。
わたしは都合のよい夢を見てるのかと思った。


「ほんとですか?」

「ほんとだよい」

「嫌いって言ったのに」

「だから、それを訂正するから開けろよい。」


わたしは扉の鍵を外してすこしだけ開けた。するとわたしが力をかけなくても扉は開いて、彼の顔を見る前に胸板に押し付けられるように抱き締められた。


「わたしも、ほんとは好きです。」

かすれて聞こえないような声だったのに彼はそれをちゃんと拾って、知っていると笑っていた。





言葉が全て真実ならば
(そうすれば遠回りもいらないのに)











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