マルコさんのいう好きがわたしはよくわからない。でも聞けた日は一日いい気分でいられるし、聞けなかった日は一日はなんとも言えない気分になる。 さすがに、自分の気持ちがわからないほど鈍くはないけれど、マルコさんの気持ちはうまく読めない。 確実に好意を持ってくれていることはわかるけど、それがただ仲間としてなのか、女の子としてなのか怪しいところである。 だからもし今日言われたら確認しようとおもう。今日のために暖めていた勇気で。 そのチャンスは予想よりもすこし早く訪れた。 甲板の掃除をしていたら、わたしの近くでサッチさんがマルコさんと話していた。 今日もしかしたら告白しようと思っているマルコさんとちょっと大きな声のサッチさんが気になってしまってちらりと目をやるとばっちりマルコさんと目があってそのまま視線をはずすのは失礼だと思ったので、「どーもです」と笑いながら手を振った。 マルコさんがゆるい笑みを浮かべて手を振りかえしてくれたのを見て、ちょっと嬉しかった。 「マルコは本当になまえがすきだなー」 私が掃除を再開しようとした直後、サッチさんがからかうようにマルコさんにそう言った。わたしの心拍数は上がり始めた。次の言葉で今日のわたしの運命が変わる。そう感じて耳を立ててしまう。 「何てたって末の妹だからよい、当たり前だよい」 上がり始めていた心拍数は急にスピードを落とした。 そっか、わたし末の妹だもんな。だからマルコさんはかまってくれるんだ。わたしは特別じゃないんだ。女の子として見られてるわけじゃないんだ。うぬぼれだったみたい。 わたしの視界がぼやけていく。まずいなと思った時には涙が床に落ちていくのが見えた。 あ、隠さなきゃとわたしは持っていたバケツを倒して辺りを水浸しにした。 いつもより下を向いて、デッキブラシで床を擦る。 息をすったらちょっとうわずった。 「なまえ、どうしたよい」 マルコさんが、わたしがちょっと変なのに気がついて駆けてきた。 下を向いたまま「平気です」と答えると、マルコさんの青が目の前に広がった。するとわたしの体は宙に浮いた。そして抵抗もできずにひとがいないところへ連れてこられた。 「何泣いてんだよい」 「もう、なんなんですか」 「どうしたよい」 「中途半端な期待してて」 「勝手に傷ついただけです」 「今日はもうっ……ん!」 わたしの口が塞がれた。それも私が知らないその感触で、焦がれていたものだった。わたしは抵抗しようとしたのにわたしの腕は壁に押さえつけられて逃げることもできない。 口が離されたあとわたしはマルコさんを見上げた。 「お前はいつも可愛いよい」 「俺の前でいつも笑顔で」 「小さな手を振るお前が」 「なまえが愛しいんだよい」 マルコさんはすこし早口でそこまで言い切った。そして、目があえばマルコさんの顔はみるみる真っ赤になった。 それを隠すように口許を手で隠した。 「……口説いてんだよい」 手のひらでこもったその声はすこし聞き取りづらかったけど、わたしの心に響くには十分すぎるだった。 「わたしも、マルコさんが好き」 「妹でいるなんて、嫌で」 「なあ、」 私が言葉を見繕っていたが、途中でマルコさんによって遮られる。 何かと思って首をかしげれば、ずいっと耳元に顔を寄せた。 「もう一回、キスしていいかよい」 こんなに近くで初めて声を聞いたのでわたしは身体中がぞわぞわとして、これまでなかったぐらい心臓が騒がしい。 わたしはいっぱいいっぱいになってうまく声が出せなかったので一度だけ頷いたら目を閉じた彼の顔が視界いっぱいに広がった。わたしもまたゆっくり瞳を閉じた。 甘酸っぱい口先 (夢をみているみたいな味を) 「妹とだなんてほんとは一回も思ったことないよい。」 -------- 緋崎翔 さまへ捧げます! |