5.かみ締めた唇
(涙は見せないよ)
どこにあった?
最近、期待してしまう自分がいる。
いけないのに…してしまうんだ。
だって
彼が優しいから。
好意がないのならあまり優しくしないで接してほしくないのに。
あれから佐伯君はすれ違ったりする時も会話をしてくれる。
困れば助けてくれる。
当たり前だけど当たり前じゃないもん。
「どうかした?」
「ひゃっ!」
いきなり話しかけられたから驚いて変な声が出た。
相手に失礼だったかな…
「ごめん…っ」
わけもわからずに咄嗟に逃げてしまった。
しかし、運動部の彼にはすぐに追い付かれて手を取られる。
「な、なんで逃げるの!?」
「いや、だって…」
「嫌じゃないなら、ここに居てくれる?もっと話がしたいから」
「うん…」
一気にペースに乗せられて、座る。
「…どうして私と話したいなんて思うの?」
「え?それは君を知りたいからだよ」
「なんですぐに止めるの?」
「それは貴重な時間を君と話すために」
「…なんで私を知りたいの?」
可笑しいじゃない。私をこんなに構って、知ろうとする。それって、期待を膨らませるだけなんだよ?佐伯君はわからないの?
「うーん、単刀直入に言うとだな…」
少し躊躇いながらも、真っ直ぐに私を見て言った。
「好きだから…だよ」
「……え?え??」
「好きだから知りたい。これは当たり前だよね?」
「わかる。わかりますけどちょっと待って!」
「わかった。…なんで俯くの?」
「だって恥ずかしいし、頭の理解速度が追い付かなくて!」
「…あはははっ!そんな考え込まなくても。単純に」
そっと私に近寄ると耳元で…
「愛してるんだ」
と囁かれ、私はもっと高潮した。
「可愛いね。君の優しくて可愛いとこが好きだよ」
「言わないで〜〜!!!」
「で?返事は?」
「…私も、ずっと、好きでした!!!」
泣きそうで、俯き、噛み締めた。それを知ってか否か、佐伯君は私を自分の胸に押し付けて抱き締めてくれた。
叶わないと思っていた想いが。
今二人を結びつけてくれた。
偶然で結ばれるわけじゃない。人は、運命で結びつくのだ。
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