1.震えた声
(せいいっぱいの虚勢)






ずっと想い続けていた。

彼の隣が私なら、と強く願っていた。





私には勇気が足りないの。
しかも勝算のない戦いだ。なんといっても想い人が皆の憧れで、競争率高い「千葉のロミオ」と言われる佐伯君だから。



イケメンはライバルが多いから困る。でも私はミーハーとは違うよ?
ただカッコイイだけの人間はつまらない。
…つまらないのだ。


彼は完璧だし、爽やかな…王子様。



「早くコクりなよ!取られちゃうよ?」
「そうは言うけど…やっぱり私には無理だよ!」


私みたいな背景の一人みたいな地味な子は相手にされないのがオチだ。




****




叶わない恋だって、知ってた。



その光景を見るまで。







「あ、」



部活で遅くなって、昇降口に向かうと誰かと話をする彼がいた。

相手は黒羽君かな?とか思った。



“取られちゃうよ?”


友人の言葉が蘇る。

勇気を出してみようかな、と思い名前を口にする前。


「さ……っ!!」
「行こうサエ」
「うん、送るよ」




目の前の光景をただ、見つめるしか出来なかった。
人は衝撃を受けると動けなくなるって本当なんだ。




私は





二人を見送るしか出来ず、少しの勇気もやっとの想いで



「…えき、くん……」



その手は震え、縮こまる。



そうか、彼女いたのか。



…いないはずないもの。
こんなにも落ち込むなんて変だよね。



でも涙が止まらないよ。





「さ、えき……く、ん……っ」




なんでこんなに苦しいのかな。




本当に好きだった。



さよなら恋。







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