スマイル(淳)
私には彼の考えがわからない。
全く読めない奴。
ミステリアス、って言うのかな?でも不思議なのは私も同じで、彼が好きなんだ。
「淳ー!」
「なにチノ?」
「聞いてよ!柳沢が酷いよ!」
「また愚痴なわけ?たまには色気ある話でもしなよ」
「余計なお世話ですー」
彼とは柳沢を通して知り合い、以後仲良しになった。
クラスが一緒というわけじゃないのに、ついつい教室に遊びに来ては彼の休み時間を奪っていた。
彼の時間を独占したいっていう邪な魂胆があるわけだ。
そんなある日、夏休み前のこと。
「え?千葉に帰るの?」
「うん、話したことあるだろ?双子の兄がいる…」
「知ってるけど…」
彼は元は千葉の六角にいたのは聞いていた。観月が手違いでスカウトしたとか。
夏休みに帰るというわけだ。
「長いの?」
「まぁね。久々に母さんの料理とか食べたいし、亮とも話したいし」
「ふぅん…」
ただでさえ休みは会えないのに。
でも部活を見に行けば会えるわけだけど…
彼と少しでも一緒に居たい。
休みなら、なんだかんだで理由をつけて遊べたらとか、思ったのに。
「早く、帰ってきてね?」
「…チノ?」
「…!あ、ごめん」
「なんで謝るの?」
「なんか図々しいかなって。こんな台詞は彼女がするものだよね!」
なんだか自分で言ってて虚しいな。
私は彼女ではないのだから。
「…早く帰るよ」
「?」
「そんな寂しそうな顔されたらそうするしかないだろ?」
「え?え!?そんな顔してた!?」
「分かりやすいよねチノは。クスクス」
「…うぅ。」
「ちゃんと帰ってくるのを待ってて。帰ったら笑顔で迎えてよ?」
「も、もち!待ってる。笑顔で!」
私は今自分で思う最高の笑顔をしてみせる。
すると淳は、満足げに目を細めて微笑む。
あ、なんかキュンときた。
「淳!早くね!」
「急かすな。…クスクス」
「あははは!帰ってくるの楽しみにしてるんだから!」
『自分の帰りを待ってて貰えるって、凄く嬉しいよね』
木更津家で淳が語る一言に、兄の亮は首を傾げるのだった。
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