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「ここ、相席しても良いかな?」
 空腹に任せて頼んだ料理をペロリと平らげ、別腹よろしくデザートに氷菓子まで注文をしたところで、頭の上からそんな問い掛けが降ってきた。視線を上に向けると、年若い男が笑顔でそこに立っている。
「あ、どうぞ」
 気付けば既に昼時なのか、店内は満員に近い客の入りだ。慌ててミファールの隣に移動したフローラに許可を得た彼は、ありがとうと礼を述べながら向かいに腰掛けた。
「やっぱり首都だけあって賑わいが違うね〜。田舎の村から出てきたから驚いたよ」
 簡単に、スープだけで注文を済ませた彼が、そう気さくに話し掛けてきた。
「あら…あなたも旅人だったのね、やっぱり」
 やっぱり…とは、彼の服装を見ての反応だ。軽装ながらも、腰に付けられたポーチや背中のマントは一般市民のそれではない。加えて横に立て掛けられた長い杖…とても目立つそれは、彼が魔法使いなのだという事を表していた。
「うん、今日この町に到着したばかりなんだ。君たちは?」
「私たちも、よ。だから観光名所を聞かれてもサッパリ答えられないの」
「アハハ!期待してる顔してたかなぁ?」
 ため息混じりの少女の軽口に、気分を害する様子も見せず笑い声が返る。
「でも安心してよ。別に観光が目的で来たワケじゃないからね」
「ふぅん?ならこの町の図書館がお目当て?」
「あれ?どうしてそう思うの?」
「だって…あなた王城に用があるようにも全然見えないし。それに…魔法使いだから調べたい事とか、あったりするんじゃないかと思って」
「うん…的確な判断をどうも。でもさ、誰かを訪ねて来たかもしれないじゃない?」
「ならこんな所で時間を潰さず、すぐご挨拶に行ったら良いと思うのだけど?」
「いやぁ…腹ペコで行けば昼食を無心しているみたいだからねぇ。一応、先に腹ごしらえをと思ったんだ」
 打てば響くような食えない彼の受け答えに、フローラは半眼で押し黙った。腹ペコな人間がスープだけの注文…?と疑問に思いもしたが、その言葉を否定する要素は何も無いので。
「ところで…連れのお姉さんは君の血縁かい?さっきから黙ったままだけど…」
「えっ…!?」
 不意に話を振られ、ミファールは慌てて顔を上げた。
「あ、いえ…お気を悪くされたならすみません…フローラとの会話が目まぐるしくて、つい」
 戸惑いながらもそう告げる彼女に、男は別段腹を立てる様子も見せない。
「ふぅん…いやに他人行儀に話す人なんだね。隣の妹さんと大違いだ」
「えっ…あ、その…」
「ミファールは神殿で勤めて長かったからね。あんまり砕けた話し方は得意じゃないのよ」
 男の畳み掛けるような問い掛けにオロオロと困った顔をしていたミファールは、フローラの助け舟にホッと胸を撫で下ろした。彼女が会話に参加しなかったのは、自分の喋り方に余計な事柄を悟られないようにとの、彼女なりの配慮だったからだ。
「神殿?ああ…だからそんなに丁寧な話し方をしていたんだ。てっきりお忍びのお姫様か何かだと思っちゃったよ。とても綺麗な人だもん」
「えっ!?き…綺麗だなんて…そんな…」
「…おしゃべりな人ねぇ」
 興味本位な彼の掘り下げに、微かな不快感を覚えたフローラは、男を静かに睨め付けながら席を立った。
「ごちそうさま!さて、デザートもいただいた事だし…私達は先に失礼するわ。ごゆっくり、どうぞ」
 敢えて『ごゆっくり』の部分を強調しつつ、フローラはそれから振り返ることも無いままにミファールの手を取り店を後にした。
「へぇ…面白いじゃないか…」
 そんな二人の背中を見つめながら呟かれた、彼の言葉には気付く余裕も無く…。



「なんっなの、アイツ!!」
 大きな足音を立てながら歩く少女に、大通りを行く人々が各々振り返る。見た目に似合わず短気な連れに、ミファールは苦笑しつつ彼女の後ろを追っていた。
「人の事情を根掘り葉掘り聞こうとしたりさ…揚げ句の果てにはミファールに色目を使ったりして!すっごく気分悪いぃぃぃ〜っ!!」
 パンパンに膨らんだほっぺたにとある動物を連想し、漏れそうになる笑いを噛み殺してやりながら。苦笑めいていたのはそのせいだ。
「せっかく美味しかったシャーベットも全っ然楽しめなかった!代金徴収したいくらいよ!」
「フローラったら…」
「ゴメンね、ミファール…嫌な気分にさせて。あんな人間だって解ってたら、席なんて絶対に譲らなかったのに!」
「いいえ、私は何も気にしてませんよ。むしろフローラと彼の会話が面白くて…口を挟む隙が無く残念でした」
 腹立ち紛れに謝るも笑顔でそう返され、渋々ながらフローラもそれ以上は続けなかった。
「もう、いいや!手っ取り早く許可を貰って、とっとと目的の図書館に行っちゃいましょ!」
「そうですね…フフッ」
 それでも押し込めきれなかった笑みが口へと出てしまい、余計にフローラの顔をムッツリとさせてしまったのだが、彼女なりにミファールに対する愛嬌を混ぜた態度なのだと判断して、嬉しく思いながらその後を追い掛けていった。


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